企業にとって長年にわたって経営を継続することは理想的ではありますが、不景気に伴う経営難や後継者不足など様々な事情により、会社を続けられなくなる可能性があります。
そういった時に行うのが解散・清算です。この記事では企業の解散・清算の概要から種類、具体的な手順、注意点などについて解説します。今は調子が良くてもいつ解散・清算に直面するかわかりません。ぜひ今回の記事を参考にしてみてください。
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企業を解散する時
企業は、不景気などの影響を受け業績が悪化してしまうと解散に追い込まれることがあります。また、M&Aを実施し、会社がなくなる時も解散しなければいけません。
解散とは、その名の通り会社を解散させて法人格を消滅させることです。経営者にとって解散は避けたいものかもしれませんが、業績が悪い中で無理やり会社経営を続けても従業員や関係会社に迷惑をかけてしまう恐れがあるので、選択肢の1つとして覚えておかなければいけません。
解散=会社の経営不振というイメージがあるかもしれませんが、近年では後継者不在のために黒字経営でも解散に追い込まれるケースも珍しくありません。また、早い段階で会社を解散させ老後の生活に突入するという経営者も中にはいます。
ちなみに解散と一言で言っても、思い立った日にすぐに会社を解散させることはできません。むしろ解散の手続きには、時間もコストもかかります。つまり簡単に解散ができるわけではないのです。
会社解散の種類
会社の解散には大きく分けて以下の3種類があります。
- 任意解散
- 強制解散
- みなし解散
任意解散とは、株主総会の決議を経て行われるものです。解散の事由としては定款で決められている存続期間が終わってしまうケースや同じく定款で定められている解散の事由に伴うケース、さらには合併に伴い会社が消滅してしまうケースなどがあります。
強制解散は、裁判所から解散の命令が下されている会社や法律に伴い解散をしなければいけない状態に陥っている会社に対して行われます。そしてみなし解散は、最後の登記から12年が経過している休眠状態の会社に対して行われるものです。
ちなみに解散と聞くと会社倒産のようなイメージをしてしまうかもしれませんが、両者は全くの別物です。倒産は、会社更生法や民事再生法を適用したもので、会社自体が消滅しているわけではありません。一方の解散は法人格を消滅させるものです。
解散時に必要な清算
会社を解散するときには清算を行わなければいけません。清算とは簡単にいうと会社に残った全ての財産を整理して換金することです。具体的には有価証券や建物の現金化、買掛金の回収、債務の返済、残余財産の分配といったことが挙げられます。清算を行うことで解散した後に財産が残らないようにするのです。
ちなみに、清算を行なっている間、企業は清算以外の活動を行うことはできません。そのため、以下のようなことは行えなくなります。
- 売掛金回収以外の営業活動
- 資金調達
- 自己株式の有償取得
- 他の企業との吸収合併
- 株式移転
など
なお、清算を行うことで会社は法人税の支払いが免除されるほか、決算申告も行う必要がなくなります。そして、清算が終了すると会社は消滅します。
清算の種類は3つ
清算を行う場合、会社の状況に応じて以下の3種類から選ぶことになります。
- 通常清算
- 特別清算
- 任意清算
通常清算は、3つの生産の中でも1番ポピュラーなものだと言えます。通常清算の特徴は取締役の代わりに清算人が清算を行う点にあります。他の清算だと裁判所の監視が入ることもありますが、裁判所が関わることなく清算を進めることができます。大まかな流れは以下の通りです。
- 清算人を選ぶ
- 官報・個別公告
- 清算手続き完了
清算人の具体的な人数は会社によって異なります。最低1人いればいい会社もあれば、監査役会がある株式会社など最低3人必要となる会社もあります。また、取締役の中から選ぶのが一般的ですが、他の従業員から選出することも可能です。中には事前に定款によって清算人が決められている会社もあります。
清算人の選任が終わったら、清算人は債権者に対して官報にて公告を行い債権の詳細を確認します。その後、会社の財産換金や債権の取り立て、債務の弁済などを行い、決済報告書の作成、株主総会の承認を経て清算完了となります。
特別清算は、裁判所の監視のもとで清算を行います。特別清算を行うのは債務や債権に関連する問題を抱えている企業が対象になります。
通常清算との1番の違いは裁判所の関わりのうむです。特別清算の場合、裁判所が監督する中で財産の整理を行い、債務の返済などを行なっていきます。一方の通常清算は裁判所ではなく、清算人が中心となって清算を行います。
ちなみに、特別清算は破産とも別物です。破産は簡単にいうと返済できないことを表明するものですが、特別清算はあくまでも裁判所の監督のもと完済を目指しています。また、破産は個人でも行えますが、清算は企業のみが行えます。
任意清算
任意清算とは、定款で定められている事柄や社員の同意を得た事柄に関して清算を行います。ただし、任意清算を行えるのは合名会社や合資会社にのみ限られているのが特徴です。
行うこととしては他の清算と大きな変わりはなく、解散の登記申請や財産目録の作成、債権保護の手続きなどが挙げられます。
清算の登記について
清算手続きを行う際に必要となるものの1つに登記があります。登記とは、様々な権利関係などを社会に公示する際に行うものです。清算の際に行う登記の他にも不動産に関する登記、船舶に関する登記、成年後見人に関する登記など様々なものがあります。
清算における登記は、財産の換価処分や債務の整理などが終わった時に最後の締めくくりとして行うことになります。なお登記の際には以下のような書類が必要になります。
- 登記申請書
- 株主リスト
- 委任状(代理人を委任している場合)
- 株主総会の議事録
- 清算事務報告書
など
また、登記にあたっては一定のお金も必要になります。具体的には、登記を行う際に、登録免許税として2,000円が必要になるほか、会社に支店がある場合はそれぞれの登記でお金が発生することになります。さらに、登記の手続きを代理で行ってもらう場合は別途費用が発生します。非常に高額というものではありませんが、忘れてしまわないように注意してください。
そして、清算の登記は清算の決議を経てから2週間以内に行わなければいけない、という期間が設けられています。ちなみに、支店がある場合、支店の所在地で3週間以内に登記申請を行う必要があります。
解散の流れ
ここからは、解散する際の具体的な流れについて解説していきます。解散時の流れは以下の通りです。
- 特別決議
- 清算人選任の登記および解散の届出を行う
- 財産目録・貸借対照表の作成
- 官報公告
- 清算決了の登記・届け出
1つずつ解説していきます。
会社の解散を行う場合、まずは株主総会を開いて特別決議を行う必要があります。株主総会では解散日を決めるほか、必要に応じて清算人の選任も行わなければいけません。決議は株主が所有する議決権の2/3以上の賛同が得られれば解散が承認されることになります。決められた解散日を迎えるとその会社は解散となります。
次に解散に設定した日を過ぎたら、そこから2週間以内に解散と清算人の登記を会社を管轄する地域の法務局で行う必要があります。また、2ヶ月以内に税務署やハローワーク、社会保険事務所、労働基準監督署、都道府県税事務所、市区町村役場などに解散の届出を行わなければいけません。
そして登記や届出が済んだら、清算人が財産目録と貸借対照表の作成を行います。作成したこれらの資料は株主総会での承認を得る必要があり、承認を経なければ清算の実務に取りかかることはできません。なお、承認してもらった財産目録や貸借対照表などは会社で保管するようにしてください。
その後、官報で解散公告を行います。この公告は最低でも2ヶ月間は行わなければならず、期間が終了して初めて清算が行えるようになります。
最後に行うのが清算決了の登記と届け出です。2ヶ月間の官報公告が終了したら、債権や債務の取立て、残余財産の分配など清算を行います。その後清算が終了したら、決算報告書を作成し株主総会で承認を得れば清算決了の登記と届け出を各機関に行います。
なお、清算を行っていく過程で債務超過の疑惑が発生した場合、通常清算を行っていても途中で特別清算に切り替わることもあるので注意してください。特別清算になった場合、解散が取りやめになり破産手続きをする異なり可能性もゼロではありません。
清算の流れ
清算は会社を解散する過程の1つですが、いくつかのステップに分かれています。具体的な流れは以下の通りです。
- 清算人を選ぶ
- 清算人を登記する
- 財産の換価や債権を回収する
- 債務の弁済と残余財産を分配する
- 清算決了の登記
詳細は解散の流れの部分で説明したものと重複するので省きますが、通常清算なら上記の流れで行われます。なお、清算手続きを行うには最低でも2ヶ月以上はかかるので、時間に余裕を持って行うようにしましょう。
清算の費用
会社の清算にはある程度の費用がかかります。例えば、先ほど紹介したように登記を行う際には登録免許税が発生します。清算の過程ではいくつかの登記を行うことになるため、合計すると大体4万円前後は必要になります。
また、登録事項証明書という書類が必要になった場合は取得費用として数千円が必要になります。そして、官報広告を行う際には3万円ほどが必要になるなど、細かいお金が何かと発生するので注意しておきましょう。
ちなみに、清算登記の手続きを司法書士に依頼する場合は別途5万円〜がかかります。そのほかにも、各種手続きの過程で公認会計士や弁護士、税理士など各種専門家を利用すると費用が発生することになります。
これはあくまでも清算の場合であり、解散全体で考えるとこれにプラスして数万円が必要になるでしょう。
そして、意外と見落としてしまいがちなのが、従業員の退職金です。清算をすると、会社は従業員を雇えなくなってしまうため、解雇することになります。解雇するとなると退職金が発生し、従業員の人数が多いと支払う金額も高額になります。もし退職金が支払えないとなると、従業員との間で裁判などのトラブルが発生する可能性もあるので、注意しなければいけません。
このように、解散・清算には一定の費用が必要になります。
清算の税務
清算や解散を行うと各種税金の確定申告が必要になります。解散の確定申告は解散日の翌日から2ヶ月以内に、清算の確定申告は残余財産が確定してから1ヶ月以内に行わなければいけません。
確定申告は解散年度分のものを行うだけで構いませんが、中には解散してから残余財産の確定までに時間がかかるケースがあり、そうなると残余財産が確定するまで1年ごとに確定申告が必要になります。
清算の注意点
清算を行う際にはいくつかの点に注意しなければいけません。ミスなどが発生すると賠償責任を問われる可能性があるほか、清算自体が滞ってしまう恐れがあります。
主な注意点は以下の通りです。
- 清算人の義務を果たす
- 専門家の力を借りる
- 清算形式が変わる可能性があることを把握しておく
それぞれについて解説していきます。
清算人の義務を果たす
通常清算を行う場合、清算人を選任し、清算人が中心となって清算を進めていくことはすでに説明した通りです。この清算人には3つの義務があり、これを怠ってしまうと、賠償責任を負うことになります。3つの義務は以下の通りです。
- 現務の完結
- 債権の取立てと弁済
- 残余財産の分配
義務を負うことになるため、清算人は責任感があり、取り立てや弁済といった作業をしっかりと行える人を選んだ方がいいでしょう。
会社の清算は多くの手続きが必要で、時間もかかります。清算にあまり詳しくない人が簡単にできるようなものではありません。そのため、手続きを行う際は、弁護士や司法書士といった専門家の力を活用することをおすすめします。
弁護士や司法書士は手続きの流れや注意点などを的確に把握しているほか、各種清算方法を理解しているので、スムーズに清算を進めることが可能です。例えば、通常清算が特別清算に変化する場合などもしっかりと対応してもらえるでしょう。清算人の義務についても把握しているので、清算人が賠償責任を負うリスクも低減します。ただでさえ複雑で時間のかかる清算なので、専門家のアドバイスを積極的に活用していくようにしましょう。
清算形式が変わる可能性があることを把握しておく
先ほども触れているように、通常清算を行っていても、債務超過の疑いがある場合などは、特別清算に移行することになります。
特別清算は裁判所の管理のもとで行われるため、通常清算とは進め方なども大きく異なるほか、特別清算がうまくいかないときは会社が破産する可能性もあります。
清算のメリット
ここまで解散・清算の概要や流れについて解説してきましたが、ここで改めて清算を行うメリットを確認しておきましょう。
清算のメリットとしてあげられるのは、法人が負う義務がなくなる点にあります。例えば、会社の経営状況がよくない時、解散以外にも会社を休眠状態にすることも選択肢として考えられますが、休眠状態だと住民税や法人税など納税義務が発生します。しかし、解散・清算なら会社そのものがなくなってしまうので、納税の必要がありません。また、毎年行う決済報告も不要となります。
そのほかにも、役員の任期を考慮する必要がない点もメリットとして挙げられます。休眠状態だと、経営自体を行なっていなくても役員の登記などは必要になります。万が一登記を怠ってしまうと、追徴金を支払うことになる可能性もゼロではありません。しかし、清算を選択すれば、これらの点が全て不要になります。
清算のデメリット
清算にはメリットの一方でデメリットもいくつか存在します。例えば清算を行うと事業自体が停止されてしまうため、法人格がなくなり、取引先とのつながりや関係も全てなくなってしまいます。
そのため、取引先とトラブルが発生してしまう恐れがあります。また、従業員を解雇することになるため、退職金の発生や解雇に伴う従業員とのトラブルなどにも注意しなければいけません。
解散・清算以外の選択肢
ここまで解説してきたように、解散や清算はたくさんの資料作成や株主総会の開催、登記や官報公告など、手続きに時間もお金もかかるためすぐに行えるものではありません。また、企業が経営難に陥った時の選択肢は解散・清算以外にも存在します。
その1つがM&Aです。近年では解散・清算を行わずにM&Aを選択する会社も少なくないようです。M&Aであれば、会社自体は無くなっても会社の行っていた事業は別の会社に受け渡すことができます。また、取引先との関係性も継続することができるほか、従業員の雇用も確保できるでしょう。さらに会社がこれまで積み重ねてきたノウハウやスキルも継続していくことができます。
M&Aも行うのに時間はかかりますが、会社を売却できれば利益を得ることができるため、経営者にとっては引退後の資金にすることも可能です。
清算・解散は会社自体がなくなってしまうだけでなく、利益もないことを考えると、必ずしも清算・解散を選択することがベストだとは言えません。
また、近年では公的機関によるサポート制度が整備されていることもあり、M&Aをやりやすくなっていると言えます。
ただし、M&Aは成功率が高いわけではありません。成功率としては大体3割〜5割だとされています。決して成功率は高くないため、M&Aを選べば大丈夫というわけではないと認識しておきましょう。
まとめ
今回は会社の解散・清算の概要から具体的な流れ行う際の注意点などについて解説しました。経営難や後継者不足など様々な理由から会社を解散・清算することになる可能性があります。経営者にとってはあって欲しくないことですが、手続きに手間も時間も費用もかかるので、万が一に備えて大まかな流れや注意点などをしっかりと押さえておくようにしましょう。