廃業するくらいならその前にM&Aをご検討ください!

年齢やセカンドライフ、後継者がいないなどの理由から廃業を考える経営者は少なくありません。

経営者にとって事業を続けるか、それとも一定のところで廃業というかたちで会社を畳むか判断することは、人生にも関わる重要事になることでしょう。会社をより良いかたちできれいに終わらせるという意味では、廃業は決して悪い選択ではありません。

しかし、経営者にとってせっかく育てた会社を終わらせることには苦痛がともないます。長い時間と労力をかけて築き上げた会社の風土や技術などを残したいと思うのではないでしょうか。

自分が一線から退いて、会社を任せられる存在がいたらどうでしょう。育てた会社を活かしてくれる存在がいたらどうでしょう。廃業によって会社を終わらせず、会社を託すという選択肢を選んでもいいのではないでしょうか。

この記事では、廃業以外の選択肢としてM&Aをご紹介します。M&Aは会社廃業より経営者にメリットの大きい方法です。

  • 廃業とは
  • 廃業の問題点
  • M&Aとは
  • M&Aのメリット

以上のポイントを弁護士が解説します。

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廃業とは?

廃業とは「経営者の判断で自主的に会社を畳むこと」をいいます。

多くの経営者は会社を畳むことに対して「債務超過や資金繰りの苦心など、経営を続けることができない状態。だからこそ会社を畳む」という印象を持っているようです。

会社を畳む場合、必ずしも会社の資金繰りに困ったり、債務超過に陥ったりしているわけではありません。順調な経営状況でも、経営者判断で会社を畳むことがあります。

また、債務超過というほど苦心しているわけでなくても、会社の資産や債務を計算の上で清算し、会社を終わらせることがあるのです。会社が債務超過などで存続が難しい状況で終わらせるのではなく、このまま経営を続けられる状況だが経営者判断で畳むこと。これが「廃業」になります。

経営者が廃業を選ぶ理由はいくつかあります。

代表的なものをいくつかピックアップしてみましょう。

  • 退職してリタイアメント後の人生を楽しみたい
  • 体調の問題を抱えているので一線を退きたい
  • 体力的に働き続けることに限界を感じている
  • 経営状況が思わしくないので負債が大きくなる前に対処したい
  • 資金調達に苦心しているので今後のことを考えて会社を畳みたい
  • 後継者がいないため会社の存続が難しい
  • 直近または将来的な経営難が考えられるので倒産する前に対処したい

以上のような理由で廃業することがよくあります。

たとえば、経営者には退職はありません。経営者は会社の親のような存在ですから、一線を退こうと思っても、なかなか会社と縁を切ることは難しいのです。

中小企業の場合は働き手が足りないことも少なくありませんし、経営者自身が会社の技術の塊(社員たちに仕事を教える存在)ということも珍しくありません。経営者が株主になっていることもありますから、普通の会社員と違って経営者が会社を退くことは非常に難しいのが現状です。そこで使われるのが廃業です。

また、現在は新型コロナウイルスの影響で廃業を選ぶ中小企業が増えています。

新型コロナウイルスの影響で客足が減り、会社の経営が下降気味になる。しかし、即座に倒産するほどではなく、資金繰りなどを工夫すればこのまま事業を続けられる可能性もある。新型コロナウイルスの感染拡大による経営難で出てマイナスを挽回することは、かなり大変である。

このような状況の会社が「倒産する前に任意で会社を畳もう」という経営者の判断から廃業を選ぶことが増えています。

廃業と倒産の違い

経営者が廃業と倒産を同じように捉えていることは少なくありません。

廃業と倒産はまったく違う手続きです。混同してしまうと、会社を畳むことに対してマイナスの印象を持ってしまい、適切なタイミングでの廃業やM&Aが難しくなるのです。廃業と倒産を混同しないように注意が必要になります。廃業と倒産の違いは重要なポイントなので、簡単に解説を入れておきましょう。

廃業は経営難や多額の負債を抱えていない状態でも経営者の自主的な判断で行えます。すでにお話ししたように、「後継者がいない」「退職したい」「体調や体力に不安を抱えているので一線を退きたい」などの経営者の判断から廃業によって会社を畳むことも可能です。

対して倒産は、債務超過や返済不能など、マイナスを抱えすぎて、会社が存続できない状態での手続きになります。自主的に会社を存続させるか畳むか選ぶのではなく、マイナスによって事業継続が難しいために、資産や債務の清算をして会社を消滅させる手続きなのです。

債務超過や返済不能などによって倒産する場合、経営者の意思は関係ありません。任意で「会社を継続させたい」と願っても、マイナスが多い状況ですから会社存続は極めて難しいのです。

廃業と倒産にはこのような違いがあります。一般的にも廃業と倒産はよく混同されるため、廃業にもマイナスのイメージを持つ人が多いのかもしれません。廃業は「任意で会社を畳める方法」であり「経営者の判断によって会社を畳むこと」である。この点を明確にしておくことが、廃業するかどうかを判断する際には重要になるのです。

廃業の問題点

廃業は任意で会社を畳むという点でメリットもありますが、反対にデメリットや問題点も多い方法になります。

廃業を検討する際は廃業の「経営者の任意」というメリットだけでなく、問題点の部分にも目を向けたいものです。その上で、廃業を選択するか、別の選択肢を模索するか検討することが重要になります。

廃業を選ぶ前に知っておきたい問題点は5つです。

  1. 廃業の手続きは簡単ではない
  2. 廃業できないこともある
  3. まとまった資金を得られない
  4. 従業員や取引先に影響がある
  5. 会社の技術や歴史が潰えてしまう

廃業の際には以上の5つの問題点が非常に重要になります。廃業の問題点を知らずに手続きを進めてしまうと、後から「よりニーズに合った選択肢を選べばよかった」と後悔したり、会社内に不要な波乱を巻き起こしたりする結果になるのです。

廃業の問題点を把握して方法を選択するためにも、より詳細に見て行きましょう。

問題点①会社廃業の手続きは簡単ではない

会社の廃業は経営者が「廃業したい」と決断して即座にできるわけではありません。会社廃業は経営者の判断ではありますが、実際に廃業するためには手続きを踏む必要があるのです。廃業の具体的な手続きは次のようになっています。

  1. 株主総会の特別決議
  2. 解散・清算人選任登記をする
  3. 廃業することを取引先や顧客に伝える
  4. 従業員に廃業を伝え必要な手続きをする(解雇予告や退職金の支払いなど)
  5. 債権者への官報公告や通知
  6. 解散確定申告
  7. 資産の債務の整理・換金・清算
  8. 清算後の残余財産の分配
  9. 清算確定申告
  10. 清算結了登記
  11. 各窓口に必要な届出をする

廃業では、簡単に挙げるだけでこれだけのプロセスをこなさなければいけません。廃業届のような書類一枚でできることではないのです。

期間としては最短でも3カ月ほどが目安になり、段取りを整えて廃業のための手続きを進めることになります。廃業手続きは簡単ではありません。会社廃業は、経営者にとって手間と労力のかかる手続きなのです。

問題点②廃業できないこともある

廃業手続きの中には株主総会の決議が含まれます。廃業自体は経営者の任意で決めることができますが、その後に続く株主総会で特別決議の要件を満たさないなどの事態が発生した場合は、経営者が廃業を望んでも廃業できない可能性があるのです。

また、廃業においては廃業資金も重要になります。廃業手続きを進めるためには登記や官報公告などの手続きが必要です。手続きによっては費用が発生するため、ある程度のまとまった資金が必要になります。廃業資金の捻出が難しい場合も、廃業が困難になるのです。

この他に、保証債務(連帯保証)の問題により廃業できないケースがあります。

会社が金融機関からお金を借り入れるとき、中小企業であれば経営者が個人保証(連帯保証)しているケースがほとんどです。経営者が個人保証(連帯保証)していると、会社を廃業しても経営者は返済を続けなければいけません。

融資額が大きいと、会社自体は廃業しても悠々自適なセカンドライフとはいきません。個人保証(連帯保証)分の返済をするために苦心して収入を得たり、家屋敷を売却して返済分の資金調達をしたりなど、お金の苦労が続きます。経営者が自己破産を選択することも少なくありません。

個人保証(連帯保証)の問題から廃業が難しい。廃業を選択したくてもできない。実際に廃業を検討しているときによくあるケースです。

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問題点③廃業ではまとまった資金を得られない

会社を廃業した場合、経営者がまとまった資金を得ることが難しいという問題点があります。

経営者にとって会社は自分が育てた子供のようなものという印象があるかもしれません。そのため、廃業の際に会社が培った財産は経営者が受け取れると勘違いすることがあります。

会社廃業で残余財産が出ても、会社経営者がひとりじめすることは基本的に難しいといえます。なぜなら、残余財産は株主に分配されることになるからです。株主が複数人いれば、経営者だけが会社の残余財産を受け取ることは基本的にできないため、会社廃業後の生活に使えるまとまった資金を得ることは難しいことになります。

会社廃業により経営者も仕事から退くことになるのです。廃業後の収入や生活資金について考えておかないと、いきなり生活が困窮する可能性があります。廃業後の収入や生活費を考えると廃業に踏み切れない。そんな経営者がいることも事実です。

問題点④廃業は従業員や取引先に影響がある

会社が廃業すると、会社自体が消えてしまいます。その会社で働いていた従業員たちは勤め先を失いますので、次の就職先を探さなければいけないのです。

従業員たちは会社で働いて収入を得て生活しています。廃業によって収入源を断たれる社員にとって、会社廃業の影響は非常に大きいものです。特に高齢の従業員は、会社廃業によって職を失うと、次の勤め先を探すことに苦労するという問題点もあります。

会社廃業は取引先にとっても大きな影響をもたらすのです。たとえば、最大の取引先が廃業したとします。廃業によって取引がなくなると、その会社の経営にとって大きな打撃になるはずです。場合によっては経営難に陥ることも想定されます。

また、廃業する会社が、その会社でしか製造できない部品や製品を製造している場合は大変です。多くの会社が製品や部品を入手できなくなり、連鎖的にその部品で製造している製品などが作れなくなったり、特定の製品の扱いを止めたりせざるを得ないことになります。

廃業を検討している会社が特定の部品で大きなシェアを誇っていると、その会社の部品に頼っていた会社すべてが影響を受けることになります。回りまわって、その部品で作られた製品を購入していた顧客たちも影響を受けることになるでしょう。

このように、会社廃業の影響は従業員や取引先に及ぶという問題点があるのです。

問題点⑤会社の技術や歴史が潰えてしまう

会社を廃業すると、会社が培った技術や歴史が消えてしまいます。

会社として事業を回してきたということは、そこには歴史や実績に裏付けられた技術やノウハウがあったはずです。会社を廃業してしまうと、会社の技術やノウハウ、歴史や社風などがすべて消えてしまいます。

また、すでにお話ししましたが、会社廃業により社員は勤め先を失い、別の仕事に就くことになるのです。技術を持った社員が散逸することにより、技術や知識も各所に散ってしまうという問題点があります。

歴史の長い会社や高い技術を持った会社が廃業することは、社会的にも、業界的にもデメリットです。

M&Aとは?廃業に代わる選択肢

ご説明したように、廃業には5つの問題点があります。

問題点を考えると廃業はやはり難しいのではないかと考える経営者もいることでしょう。中には特定の問題点が非常に深刻で(たとえば保証債務(連帯保証)の問題など)、廃業を検討していたが、廃業はやはり難しいと結論付ける経営者もいるかもしれません。廃業の問題点が気になる場合や廃業自体が難しい場合、他の選択肢はあるのでしょうか。

廃業が難しい。廃業によるデメリットが大きい。このようなケースでは、M&Aを使って、会社を整理しつつ経営者が退くという方法があります。

M&Aとは、会社の合併や買収のことです。一言でM&Aといっても事業譲渡や株式譲渡などのいくつかの方法があり、ニーズに合わせて適切な方法を選ぶことになります。「会社を買いたい」という人や会社を見つけて、廃業を検討している自社を売却する。このような理解で問題ありません。

M&Aを使えば廃業の問題点を解決しながら経営者が一線を退くことができるのです。廃業するくらいなら、M&Aを検討してみてはいかがでしょう。

経営者がM&Aを選ぶメリット

M&Aという言葉から「会社を無理やり乗っ取りされる」という印象を持つ経営者は少なくありません。ドラマや小説などの影響からM&Aを恐ろしいものだと勘違いしている人もいます。それは間違いです。日本のM&Aのほとんどは「売りたい」「買いたい」で友好的に完結しています。また、後継者問題の解決や経営者の老後資金の捻出、廃業の代替手段として活用されているのです。

経済産業省からは、後継者問題によって廃業を余儀なくされる中小企業が解決策としてM&Aを使う場合の手引きなどが出ています。M&Aは廃業に代わる選択肢として使われていると同時に、今後も廃業を回避する方法としての活用が期待されているのです。

経営者が廃業ではなくM&Aを選ぶことには6つのメリットがあります。

  1. 会社の技術や歴史が残る
  2. 経営者がまとまった資金を得やすい
  3. 保証債務(連帯保証)を解消できる
  4. 従業員が仕事を続けられる
  5. 取引先と取引を継続できる
  6. 手続きが簡便である

廃業の代替案としてM&Aを行うことにより、廃業の問題点のほとんどに対処可能です。

M&Aのメリット①会社の技術や歴史が残る

M&Aで会社を必要としている人や会社に売却すると、会社の技術や歴史は残ります。廃業では技術や歴史はそのまま消えてしまいますが、M&Aの場合は会社の技術や歴史も込みで買ってもらえるからです。

会社を必要としている。会社の技術に魅力を感じている。ぜひ自分(自社)が継ぎたいと思っている。そんな人や会社がM&Aの売買相手になりますので、M&Aを使えば会社の技術を消滅させることなく、未来に残すことができます。

また、会社廃業では技術や歴史を評価してもらうことはできませんが、M&Aでは技術や歴史なども評価に繋がることが多いのです。経営者が育てた会社を評価と共に次の世代へ繋いでもらえるというメリットがあります。

自社の技術や歴史に誇りを持つ経営者こそ、その技術と歴史を繋ぐためにM&Aを検討すべきです。

M&Aのメリット②経営者がまとまった資金を得やすい

M&Aで会社を売却するときの金額は、目に見えない会社の価値(のれん)もう考慮することが一般的によく行われています。

たとえば、会社を買った後に会社が生み出す将来的な価値などがこの「見えない価値(のれん)」になるのです。廃業を検討している中小企業の経営がある程度安定していれば、目に見えない価値が大きく評価される可能性があります。その分だけ経営者が受け取ることのできるお金が多くなるというメリットがあるのです。老後資金の調達などに役立ちます。

廃業は手続きによって会社を終わらせることなので、のれんによって残余財産の分配がアップするようなことはありません。

M&Aのメリット③保証債務(連帯保証)を解消できる

M&Aの場合は金融機関との交渉次第で保証債務(連帯保証)を解消できる可能性があるのです。

あくまで可能性なので最終的には交渉次第です。ただM&Aの場合は、会社自体は何らかのかたちで残り、新しい経営者などに引き継がれます。その際に、会社の借入は残したまま新しい経営者との間で保証債務(連帯保証)の契約を結び直してもらうなどの方法があるのです。廃業よりも交渉の余地があります。

交渉が上手く進めば、経営者は保証債務(連帯保証)の問題からもリタイアすることがかなうのです。

M&Aのメリット④従業員が仕事を続けられる

M&Aをすると従業員がリストラにより職を失うのではないかと心配する経営者は少なくありません。中小企業のM&Aにおいては、むしろ逆なのです。

中小企業のM&Aの大きな目的は、その会社が有している技術などを安定して引き継ぐことです。会社の技術と従業員は切っても切れない関係にあります。中小企業は従業員あってこそ安定して経営でき、技術力を発揮できるといえるのではないでしょうか。買い手側はM&Aによって従業員が辞めてしまうと、技術も得られなくなり、会社の安定的な運営もできなくなるため、困ります。

M&Aの買い手側は従業員に辞められては困るため、雇用を継続し、社員が残りやすいように条件を整備するケースが少なくありません。従業員のことが心配なら、M&Aの契約の際に雇用継続や雇用の保証などを条件に入れることも可能です。

廃業の場合には、従業員は職を失います。ですが、M&Aでは従業員の仕事や収入が守れるのです。

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M&Aのメリット⑤取引先と取引を継続できる

M&Aでは会社が何らかのかたちで残るため、取引先と取引を継続することが可能です。

取引先にとっては部品の仕入れや商品の製造、販売などに大きな影響を受けることがないため、M&Aは取引先にとってもメリットがあるといえます。経営者の方も「取引先に迷惑をかけてしまう」と心を痛める必要がないのです。

M&Aのメリット⑥手続きが簡便である

廃業は官報公告や登記、株主総会などの手続きをこなさなければいけませんが、M&Aの手法の中には簡便にできる手続きも多いのが特徴です。廃業のように手続きに煩わされる必要なく、会社を存続させられます。

最後に

廃業は会社の畳み方のひとつで、経営者の任意でできるというメリットがあります。しかし、廃業には問題点もあるため、セカンドライフや後継者問題などで会社を畳むことを考えている経営者は、慎重に決めることが重要です。

会社廃業の代替的な方法として使えるものにM&Aがあります。廃業により技術や会社の歴史を絶やすくらいなら「未来に繋ぐM&A」を検討してみてはいかがでしょう。

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    弁護士土屋勝裕
    弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士。長島・大野・常松法律事務所、ペンシルバニア大学ウォートン校留学、上海市大成律師事務所執務などを経て事務所設立。400件程度のM&Aに関与。米国トランプ大統領の娘イヴァンカさんと同級生。現在、M&A業務・M&A法務・M&A裁判・事業承継トラブル・少数株主トラブル・株主間会社紛争・取締役強制退任・役員退職慰労金トラブル・事業再生・企業再建に主として対応
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