借金が返せなくなってどうにもならなくなった個人のために、債務整理という方法があります。
債務整理とは、その名の通り債務を整理することです。
債務を整理することにより借金がすべて免除になったり、一部が免除されたり、毎月の返済額を減らすことができます。
債務整理には任意整理、特定調停、個人再生、自己破産の4種類があり、それぞれ特徴やメリット、デメリットがあります。
今回は、この中の特定調停による債務整理とはどういうものかや、手続きの流れや、任意整理との違いなどについて詳しく解説していきます。
Table of Contents
特定調停とは?
特定調停とは債務整理の内の一つで、裁判所の民事調停制度により多重債務や借金返済の問題を解決するための手続きのことをいいます。
但し、通常の民事調停と異なって特殊な手続を要するため,民事調停のみならず「特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律」(特定調停法)でも規定されています。
特定調停の内容は、借金の返済が難しくなった債務者の申請を基に簡易裁判所が債務者と債権者を仲裁することで、返済の免除や返済を軽減させることなどのの合意が成立できるように促すものです。
そしてその目的は、債務者が借金を整理することにより生活を立て直すことができるように支援することになります。
具体的な特定調停の方法としては、簡易裁判所から選任された調停委員が債務者から債務の状況や収入の状況などを徴収します。
そして、債務者の状況を考慮して、債権者と返済可能な債務の限度についての調停をするものです。
特定調停を利用するための条件
特定調停は債務整理のための一つの方法であるため、誰でも利用できるものではありません。
特定調停を利用するためには、「特定債務者」であることが条件になっています。
特定債務者とは、以下の2つの条件を両方とも満たしている場合になります。
金銭債務を負っていること
ただ債務を負っているだけではなく、借入金などの金銭債務を負っていることが必要です。
この場合の金銭債務とは、買掛金も含まれます。
支払不能に陥る恐れがあること
支払不能とは、借入金を通常に返済していくことが難しい状態のことをいいます。
また、支払不能に陥る恐れがあることとは、現に支払不能の状態でなくても恐れがあれば足りるとされています。
特定調停のメリット、デメリット
特定調停には、いろいろなメリットとデメリットがあります。
特定調停のメリットやデメリットを知ることは、債務整理を行う場合にどの種類の債務整理を選ぶかの判断になりますのでとても重要です。
特定調停のメリット
特定調停のメリットは以下になります。
自分で申し立てができること
特定調停は基本的に債務者本人が裁判所に申し立てを行います。
申し立ての手続きは裁判所で教えてくれますので、弁護士などの法律の専門家を通さずにできます。
費用が安いこと
弁護士などの法律の専門家に依頼をしなくても行えるため、費用が他の債務整理に比べて格段に安くすみます。
自分で特定調停の手続きをする場合には、債権者一社につき500円の手数料+予納郵券のみです。
債権者が多い場合にはその分だけ費用がかかりますが、少なければ費用を抑えることができます。
借金の用途を問われないこと
特定調停は、原則借金の用途は問われません。そのため、ギャンブルなどの知られたくないような借金であっても、申し立てすることができます。
支払い不能の状態でなくても申し立てができること
支払い不能に陥る恐れがあれば、実際に支払い不能になっていなくても申し立てができます。
裁判所の調停委員が交渉してくれること
特定調停は申し立てをした裁判所で行われ、裁判所の調停委員の主導で債務者と交渉を行います。
裁判所が債権者と債務者を仲介してくれるため、泥沼化することを避けることができます。
借金の取り立てが止まること
返済が滞って督促が届き激しい取り立てが行われていても、特定調停の申し立てを行い受付票が金融業者に届いたら取り立ては止まります。
財産を手元に残すことができること
特定調停による債務整理は、整理をする債務を選ぶことができます。
例えば、住宅などの財産を残したい場合は、住宅ローンを整理対象から外すことができます。
強制執行を停止できる可能性があること
強制執行を容認する公正証書が債務者と債権者の間で作成されていたとしても、特定調停では債権者の一部が強制執行を行えないように裁判所が民事執行の手続きを停止することができます。
但し、強制執行の停止はあくまでも裁判所の裁量で行われるため、必ず停止されるとは限りません。
特定調停のデメリット
特定調停による債務整理は、メリットばかりではありません。
特定調停のデメリットは以下になります。
特定調停が必ずしも成立するわけではないこと
特定調停が成立するためには、債権者の合意が必要です。そのため、同意を得られなければ、必ずしも成立するものではありません。
思うよりも減る額が少ない場合があること
特定調停による引き直し計算を行っても、自分が思っているよりも返済額が減らない場合もあります。
計画通りの返済が行われなければ差し押さえなどの強制執行が容易であること
特定調書が成立した場合には、調停調書が作成されます。しかし、この特定調書により成立した支払い計画通りに返済できない場合は、差し押さえや強制執行が容易にできるといわれています。
特定調停の成立までに時間がかかる場合があること
特定調停の申し立てを行うためには、各種の書類などを準備し作成する必要があります。
そのため、手続きに時間がかかる場合があります。
時間がかかればかかるほど、取り立ての止まるまでの時間がかかります。
裁判所の調停委員が債務整理の専門家とは限らないこと
調停委員が債務整理の専門家でないと、特定調停による引き直し計算を行っても結果的に債務者にとって不利な調停内容になる場合もあります。
裁判所の調停委員は、必ずしも債務整理の専門家ではないのです。
過払い金が返還されないこと
特定調停は過払い金の回収をする制度ではないため、利息制限法の改正前に支払った利息に過払い金が発生したとしても過払い金の返還請求はできません。
過払い金の請求をするには、別に弁護士に依頼をして過払い金返還請求訴訟を行う必要があります。
このように、特定調停にはデメリットが多く成功率も低いため、申し立て件数は年々減っている状態です。
特定調停と任意整理との違い
特定調停の他の債務整理の方法の一つに、任意整理があります。
任意整理とは、特定調停とは異なり弁護士が債務者の代理人となって債権者と交渉し和解する整理方法です。
特定調停も任意整理も債権者との話し合いにより和解を目指すところや、借金を減らせる額がほとんど同じところが共通点になります。
特定調停は裁判所が仲介する公的な整理方法なのに対し、任意整理は弁護士が代理人となる私的な整理方法なのです。
以下は特定調停と任意整理との違いになります。
債務者との代理関係
特定調停は弁護士が代理人になることも可能ですが、基本的には本人が自分で申し立てを行います。
一方、任意整理は弁護士が代理人となって行われます。
かかる費用
特定調停は債権者1社につき500円ですが、任意整理は弁護士との契約によって支払う費用が決まります。
取り立てが止まるまでの時間
特定調停は、書類などを準備して裁判所に特定調停の申し立てをすることにより取り立てが止まりますのである程度の時間がかかります。
一方、任意整理は、弁護士に依頼することにより直ちに取り立てが止まります。
借金の減額について
利息制限法の上限金利により引き直し計算を行い減額されることは同じであるが、特定調停は調停までの遅延損害金が加算される場合があります。
一方、任意整理は、和解までの遅延損害金は基本的に加算されません。
調停成立や和解成立する可能性
特定調停は調停が不成立になる可能性も高いのですが、任意整理はほとんどのケースで和解が成立します。
過払い金の返還請求
特定調停は過払い金の返還を考慮した調停をすることが困難なのに対し、任意整理は過払い金の返還も考慮した引き直し計算を行うことができます。
特定調停の手続きの流れ
ここまで特定調停について見てきましたが、手続きはどのように行えば良いのでしょうか?
以下は特定調停を行う時の手続きの流れです。
裁判所への相談
特定調停の申し立てを行う予定の簡易裁判所に行って、用意すべき書類や手続きの流れについて相談しておくと好ましいでしょう。
特定調停の申立書を作成する
まずは、裁判所に提出するための申立書を作成します。申し立て書には、住民票の写しや所有する財産の明細や借金の契約書類などを添付する必要があります。
また、特定調停を行う債権者の一覧表や会社の登記簿謄本なども必要です。
特定調停の申し立てを行う
特定調停の申し立ては、原則債権者側の所在地を管轄する簡易裁判所に対して行います。
申し立ては、収入印紙と郵便切手と共に裁判所用(正本)と債権者用(副本)の申立書を提出します。
事件受付票の交付と調査期日の指定
特定調停に必要な書類がすべて揃っている場合は、裁判所から債務者へ事件受付票の交付と調査期日(申立人の事情聴取日)の指定が行われます。
各債権者への通知
特定調停の受付が済んでから通常2~3日後に調停の申し立てが行われたことが債権者に通知されます。
この通知が行われると、債権者は債務者への直接の取り立てが禁止されます。
また、この通知と共に債権者は契約書類や取引履歴の提出を求められ、特定調停として進行できることが明確な場合は第1回の調停期日が設定されるのが通常です。
調停委員の選任
裁判所が調停委員名簿に基づき、調停主任裁判官と原則として2名の調停委員からなる調停委員を選任します。
調査期日
調停委員と申し立て人による調査期日(申立人の事情聴取日)が行われます。
調査期日では、申立書の内容や債務状況の確認や今後の生活の見込みなどが調停委員から申し立て人に質問や相談がされて、返済計画案が作成されます。
第1回調停期日
調査期日から約1ヵ月後に、調停委員と各債権者による第1回調停期日が行われます。
調査期日で作成された返済計画案について各債権者との間で個別に返済計画が調整され、合意できれば条項が調停調書に記載されて調停は終了します。
合意できず何回か調停期日を行った場合や、債権者の依頼などにより民事調停法17条で決定されることがあります。
民事調停法17条とは、裁判所がこれまでの話し合いの経過や事情などを見て公平を考慮し職権で解決のために必要な決定をすることができることをいいます。
民事調停法17条での裁判所の決定について債権者からの異議の申立がない場合は、最終的に裁判所が決定した通りに返済していくことで解決したことになります。
民事調停法17条に対する異議
民事調停法17条による調停に代わる決定による返済計画を同意できない場合には、債権者は異議を出すことができます。
債権者から異議を出された場合は特定調停は不成立となり、債務者が求めた借金の減額などは発生しません。
そのため、任意整理などの別の債務整理を検討する必要があります。
このように、特定調停は、費用がかからないが時間がかかる場合が多いのが特徴です。
実際に特定調停を行う場合には、今まで見てきたようなメリットやデメリットなどを考慮して選択するのが良いでしょう。