色々な事情で借金が膨れ上がり、支払い不能の状態(どう頑張っても完済することは望めない状態)となった時、債務者を社会政策的に救済する手段が用意されています。
自己破産と呼ばれる法律上の仕組みがあり、この制度を利用できれば一般的な借金をすべて帳消しにして、人生を再出発できる望みが生まれます。
しかしこの制度は非常に強力な力があるため、場合によっては破産制度の利用を認めてもらえないこともあります。
それだけでなく、ケースによっては刑罰の適用を受けてしまう恐れもあるので注意を要します。
本章では自己破産を検討する際にやってはいけないことを詳しく解説していきます。
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自己破産を考えるときの基本姿勢
自己破産は借金を帳消しにできるという強力な力がありますが、それは裏を返せば債権者の権利や利益を大きく害することになります。
従って、自己破産の適用を受けようとする者には、救済に値する事情がなければならず、この制度を利用して不当に義務から逃れようとしたり、確信的な悪意を持って制度を利用しようと考えることは許されません。
「免責不許可事由」というものがあり、一定の事情が認められる事案では裁判所が自己破産を認めないことになっています。
また悪意が強いケースでは刑事罰をもって臨むことも可能で、場合によっては逮捕、収監されることもあります。
従って、自己破産を考える際には、免責不許可事由にあたる行動をとらないようにし、また犯罪にあたるような行為をしないようにしなければなりません。
まずは自己破産を否定される可能性のある「免責不許可事由」とはどのようなものか見ていきます。
11の免責不許可事由
自己破産の手続きでは、破産決定の後に「免責許可」というものを裁判所に認めてもらって、初めて借金を帳消しにすることができます。
不当な目的で以下の11の行為を行った場合、免責不許可事由にあたると解釈され、自己破産が認められなくなる恐れがあります。
財産を隠したり、減少させる行為
自己破産をする場合、現状で残された保有財産を債権者に分配することになります。
破産予定者が保有する財産は「破産財団」として扱われ、分配の原資になります。
破産財団に含まれることになる財産について、これを隠したり、不当に安い金額で売却してしまうことは、破産財団の減少を招く行為であり、債権者を害する行為になります。
こうした行為は免責不許可事由となるので避けなければなりません。
不利益な債務負担や信用取引後の換金処分
明らかな高利でお金を借り受けることや、信用取引で購入した商品を安価で売却処分する行為も免責不許可事由になります。
代表的な行為としてはヤミ金を利用したり、クレジットカードで購入した商品を安く売却して現金を手にしようとするような行為です。
手元に現金を作る裏ワザ的な行為としてクレジットカード現金化を推奨するような情報がインターネット上にあふれていますが、決して手を出さないようにしましょう。
偏頗弁済(へんぱべんさい)
複数の借入先があるなど債権者が複数いる場合、その中の特定の債権者だけに弁済したり、担保を設定したりする行為を偏波弁済といいます。
例えば親族や特別な義理のある人物だけに弁済を行うと、それ以外の債権者に支払う弁済資金の減少を招きます。
自己破産をする場合は破産財団の減少となるので、債権者全体にとって不公平です。
不当な目的で偏波弁済を行うと免責不許可事由となる恐れがあるので、自己破産前に独自の判断で特定の債権者に弁済をすることは避けてください。
ギャンブルや浪費
自己破産は人生の再出発を応援するための強力な手段です。
その裏では債権者の権利が大きく侵害されることになるので、本人の責めに帰すべき事情で借金が膨らんだようなケースで免責を認めてしまうのは債権者に酷です。
例えば本人がギャンブルにのめりこんで借金を重ねたようなケースや、不要な買い物などで浪費するような行為は、本人の責めに帰すべき事情であって、そのために債権者が泣きを見るようなことがあってはなりません。
そのためギャンブルや浪費は免責不許可事由にあたります。
詐術による信用取引
自分にはもはや借金を弁済する力がない状態だと知っていながら、これを隠してローンを組むなどの信用取引をする行為は、相手方の利益を害することになります。
相手方は借金の弁済を受けられると思ってお金を貸したわけですから、相手をだまして借金を踏み倒す結果になるからです。
破産手続きの申し立てをした日の1年前から、破産手続き開始の決定があった日までの間に、そのような行為をすると免責不許可事由になる可能性があります。
帳簿等の隠匿・偽造・変造
業務及び財産に関する帳簿や書類、その他の関係物件を隠したり、偽造・変造する行為は、正確な破産財団の構成を妨げ、債権者の利益を害することになるため、免責不許可事由になります。
個人でも事業をしている場合は帳簿等の書類がありますから、これらについて隠匿したり改変を加える行為をしてはいけません。
虚偽の債権者名簿や債権者一覧表を提出する行為
裁判所に提出する債権者の名簿や一覧表に、虚偽の記載をして提出する行為です。
うっかりミスで記載漏れが生じた場合は該当しませんが、例えば親族や友人知人をわざと債権者一覧表に記載せず、独自に弁済を続けていこうとするような行為は、公平性を害するため認められません。
裁判所にうその説明をしたり、説明を拒む行為
破産手続きにかかる裁判所の調査に対して、真実でない説明をしたり、説明自体を拒む行為も免責不許可事由になります。
破産管財人等の職務を妨害する行為
破産手続きの進行に関わる、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理、保全管理人代理の職務を不正な手段により妨害する行為です。
「妨害」の範疇は広くとらえられ、暴力など直接的な行為はもちろんですがその他の不正な手段が広く妨害行為になりえます。
また上記破産管財人等の指示に従わない行為も、程度によっては妨害の範疇に入ってきます。
過去7年以内に一定の法律上の保護を受けたこと
過去7年以内に、破産や民事再生による一定の救済措置を受けたことがある場合は免責不許可事由になります。
本章の趣旨からは若干ずれますが、自己破産等の救済システムを頼って短期間に連用しようとする行為は認められないと考えてください。
破産法に定める義務に違反する行為
破産法では自己破産制度を利用しようとする者に一定の義務を課しています。
本人に関わる事情を説明する義務や、財産関係を明らかにする義務、その他破産を認めるか否かの判断に必要となる事情を説明する義務など、手続きの進行に必要な協力を拒む行為がこれにあたります。
上で見てきた11の免責不許可事由がある場合は、原則として破産が認められないことになります。
ただし、「裁量免責」が可能なケースもあるので、可能性は0ではありません。
裁量免責とは?
裁量免責とは、前項の免責不許可事由がある場合でも、裁判所の裁量により、特別に免責を認める判断をいいます。
破産手続きを行うことになった経緯や、その他一切の事情を考慮して、裁判所が免責を許可することが相当であると判断すれば、免責不許可事由があっても破産による免責が認められます。
例えば、ギャンブルや浪費によって借金を重ねた場合は免責不許可事由にあたるので原則として免責は認められません。
しかし、ギャンブルや浪費にのめり込んでしまった原因が精神的な病気だったような場合で、本人が病気の治療に積極的であり、今後ギャンブルや浪費をしないで生活できると裁判所が判断すれば、裁量による免責が認められることもあります。
破産の手続きは実際のところ、裁判官個人に対して上手に事情を説明できないと免責の可能性が下がってしまうので、特に裁量免責を狙う場合は裁判官を納得させられるだけの効果的な説明が求められます。
現状で信用のない本人が説明しようにも納得性が低く、資料の構成も素人には大変なため、できれば手続きを弁護士に依頼するのが安全です。
破産犯罪になる行為には要注意!
免責不許可事由は「破産が認められなくなる恐れのある事情」ですが、それとは別方面で「犯罪」となってしまう行為もあります。
犯罪ですから、逮捕、収監されるなど刑事罰の適用を受ける可能性がある、非常に危険な行為です。
法的に強力な救済を得られる破産制度を悪用しようと考えたり、制度の信頼性を損なわせるような一定の行為は、「破産犯罪」として取り締まりの対象になることを覚えておく必要があります。
どのような行為が破産犯罪になるのか
破産犯罪は大きく3つの類型に分けることができます。
債権者の利益を保護するための規定
債権者に分配するための財産を隠したり、減少させたりして、債権者の利益を害する行為を取り締まる規定です。
破産手続きの進行を保全するための規定
破産免責を望む者に対して、必要な説明をさせることや財産に関する情報を開示させる、破産管財人等への妨害行為を禁止するなどにより、破産手続きの適正な進行を保全するための規定です。
破産者を保護するための規定
悪質な債権者は、自己破産を望む者やその親族など近しい者に対して、不当に弁済を要求したり、圧力をかけるために面会を強要するなどの行為に出てくる可能性もあります。
こうした行為についても破産犯罪として規定しています。
具体的な破産犯罪については破産法の第265条~第275条に定めがあり、以下のような罪が規定されています。
ごく簡単ですが説明も加えて見ていきます。
第265条:詐欺破産罪
財産を隠したり価値を下げたりして債権者の利益を害する行為です。
第266条:特定の債権者に対する担保の供与等の罪
他の債権者を害する目的で特定の債権者に担保を供与するなどの行為です。
第267条:破産管財人等の特別背任罪
破産管財人等が行う背任行為です。
第268条:説明及び検査の拒絶等の罪
破産手続きに必要な説明や検査を拒絶したり、虚偽の説明をするなどの行為です。
第269条:重要財産開示拒絶等の罪
財産に関する資料の提出を拒んだり、虚偽の資料を提出する行為です。
第270条:業務及び財産の状況に関する物件の隠滅等の罪
業務及び財産に関する帳簿や書類等を隠滅、偽造変造したりする行為です。
第271条:審尋における説明拒絶等の罪
審尋において説明を拒んだり、虚偽の説明をする行為です。
第272条:破産管財人等に対する職務妨害の罪
破産管財人等に対して、種々の方法によりその業務を妨害する行為です。
第273条:収賄罪
破産管財人等が、その職務に関して賄賂を要求したり、受け取ったりする行為です。
第274条:贈賄罪
破産管財人等に対して賄賂を贈る行為です。
第275条:破産者等に対する面会強請等の罪
債権者等が債務者やその親族等に対して、不当に弁済を行わせたり、面会を強要するなどの行為です。
上記の中で最も罪が重いのが第265条の詐欺破産罪です。
債権者に分配されることになる債務者の財産について、隠したり、わざと棄損したり、仮装譲渡したり、不当に安く換価するなどして債権者の利益を害する行為をすると、10年以下の懲役、若しくは1000万円以下の罰金、又はそれらを併科されるという、非常に重い刑罰が用意されています。
詐欺破産罪も含めて、上記の各種犯罪はいつ行われたものが適用対象になるのかについては、具体的に「破産手続きの〇年前から〇年後まで」というような記述はありません。
破産手続き開始の前後を問わないとなっていますが、条文上具体的な時期が明確でないため、個別ケースで考えなければなりません。
例えば財産を不当に安く換価処分するような行為は、その行為時点ですでに破産の必要があったかどうかで判断することができます。
破産の必要があったと認識できる時期に禁止される行為をしたならば、破産犯罪と認定される可能性が高くなります。
破産犯罪を犯した場合の影響
破産犯罪を犯した場合には以下のような影響が出ることが考えられます。
刑事罰の適用
破産犯罪に対しては刑罰の適用をもって臨むことになるので、犯罪者として逮捕、収監され、個別の犯罪行為に適用のある刑罰を科せられる可能性が出てきます。
破産が認められない
破産犯罪の一部は免責不許可事由になるものも含まれます。
財産隠しなどは破産免責を許可しない事由ともなっていますから、自己破産ができないうえに刑罰の適用も受けるダブルパンチとなる可能性があります。
取引の有効性が失われる可能性
破産管財人が付くケースでは、破産者の財産の処遇については破産管財人に権利があります。
本人が不当に安く換価処分したような場合、破産管財人がその取引を否定することがあります。
その場合の影響は個別のケースによりますが、買い手が購入した財産を返さなければならなくなるなど、取引相手にも迷惑がかかることになります。
破産を考えた時から弁護士に相談するのが安全
どのような行為が破産犯罪となるか、またいつの時点の行為が当該犯罪となるかは、判断に困ることが多いでしょう。
下手をすると刑罰の適用をうけてしまうことになり、非常にリスクが高いため、少なくとも自己破産を考えた時から、それ以降の行動・行為については破産手続きの進行上問題ないか、リスクはどれくらいあるのかなど、弁護士に確認するのが安全です。
まとめ
本章では、破産の際にやってはいけないことについて見てきました。
大きく、破産による免責が認められなくなる免責不許可事由に該当するものと、刑事罰の適用を受ける可能性があるために避けなければならないものの二種類があります。
両者は一部リンクしており、特に財産隠しなどの行為は刑事罰も重くなるので、絶対に行わないようにしてください。
実際にはあまり深く考えずにやってしまいそうな行為もありますから、破産を考えた時からは、自身が行おうとする行動や行為について問題ないか、弁護士に確認をとることを強くお勧めします。