「従業員に迷惑をかけたくない」や「代々引き継いできた会社を自分の代で無くしたくない」などの理由で、破産手続きを行うべきか、悩む経営者は少なくありません。
しかし、破産手続きには毎月の資金繰りや督促の悩みから解放されるといったメリットがあるため、状況によっては積極的に検討するべきです。
本記事では破産手続きの流れやメリットデメリットなどについて解説していきますので、参考にしてください。
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破産手続きとは
破産手続きとは、会社の債務が膨らんで債務超過に陥った際に、裁判所に破産を申し立てて、会社の精算を行う手続きのことです。
裁判所が破産管財人を選任して、その破産管財人が債務者の財産を調査、調査した財産を金銭に換えて債権者に平等に配当します。
ちなみに、「破産手続き」と「倒産手続き」を同じものだと思っている方もいますが、厳密には同じものではありません。
「破産手続き」というのは、「倒産手続き」の中の清算手続きの一つにあたります。
その他の倒産手続きに含まれる手続きは以下です。
- 破産
- 民事再生
- 会社更生
- 特定調停
- 私的整理
- 特別精算
なお、上記の中でも民事再生と会社更生は、破産手続きとは根本的に異なります。
会社を精算する手続きではなく、会社を再建させる手続きになるので、覚えておきましょう。
精算しきれなかった債務について
破産手続が終了した時にその法人自体が消滅するため、法人が破産手続きを行った際に精算しきれなかった債務はすべて消滅します。
このため、精算しきれなかった債務を、破産手続き終了後も返済する必要はありません。
ただし、経営者が保証人になっている場合は、話が別になります。
支払い義務が生じるため、破産手続きを行う際は経営者の自己破産も同時に行われるのが一般的です。
破産手続きの目的
破産手続きには、以下の2つの目的があります。
- 債権者に対して債務者の財産を公平に配当し、債権者の権利の確保を図る
- 債務者に対して経済生活の再生の機会の確保を図る
ただし、法人破産の場合は破産手続きを行うと法人が消滅してしまうため、破産手続き後の再生の機会を確保することはできないので、「経済生活の再生の機会の確保を図る」目的とは、個人の破産に向けたものと言えるでしょう。
破産手続きにおける行為の制限
破産手続きが始まると、「債権者に対して債務者の財産を公平に配当し、債権者の権利の確保を図る」という破産手続きの目的を達成するために、債権者と破産者の双方に制限が課せられます。
例えば、債権者は制限によって個別に債権の回収行為を行うことができません。
複数の債権者が個別に債務を回収してしまうと、早い者勝ちになったり、力関係によって優位ができるなどして、債務者の財産を公平に配当できなくなってしまうためです。
一方で、破産者は自分の財産を自由に処分することはできません。
破産者が好き勝手に財産を処分してしまうと、債権者が制限されたとしても、公平な配当ができなくなってしまうことが原因です。
なお、破産者に関しては、上記の制限以外にも以下の制限が課せられます。
- 事業・営業活動の停止する
- 郵便物が破産管財人に転送される
- 会社役員には引っ越しなどができない居住制限が課せられる
上記の制限は、財産隠しなどが行われて、債権者に公平に配当できない事態を防ぐための制限です。
破産手続きの流れ
破産手続きを行う際の主な流れは、以下になります。
- 弁護士に相談する
- 委任契約を締結する
- 債権者に対し受任通知発送する
- 申立書類の作成・会社財産の保全・残務処理を行う
- 裁判所に破産申立てする
- 裁判所による破産開始決定・破産管財人の選任する
- 破産管財人による財産調査・財産の換価処分などを行う
- 債権者集会を開く
- 債権者への配当する
- 手続き終結(廃止決定)する
上記の手続きの流れを詳しく解説するので、内容をよく確認するようにしてください。
なお、上記の手続きは、弁護士に依頼して破産手続きを行う際の流れになります。
弁護士に相談する
破産手続きは自分でも行うことができますが、専門知識が必要なうえに手続きが複雑なため、弁護士に依頼するのが一般的です。
とはいえ、弁護士であれば誰でもいいわけではありません。
会社破産手続きの実績が豊富な弁護士に依頼をしないと、適切なアドバイスを貰えない可能性が高いので、注意するようにしてください。
委任契約締結する
会社の破産手続きを依頼する弁護士が決まったら、委任契約を締結します。
ただし、会社に取締役会がある場合は、法人破産についての委任契約を締結する前に、取締役会を開催して承認決議をとるか、理事や取締役全員から同意を得ることが必要です。
決して早まらないようにしましょう。
債権者に対し受任通知発送する
委任契約を締結した弁護士から、会社の債権者に対して、弁護士が仲介したことを知らせる受任通知が送られます。
受任通知を受け取った債権者は、それ以後取り立てを行うことができないため、執拗な取り立てから逃れることが可能です。
ただし、借り入れをしている金融機関に受任通知を送付してしまうと、送付した金融機関の預金口座が凍結されてしまうため、受任通知前に残高を出金しておくなどの対応を行なっておくようにしましょう。
申立書類の作成・会社財産の保全・残務処理を行う
委任契約締結後に弁護士が行うのは二つです。
一つは、破産申立てに必要な「債権者一覧表」や「財産目録」などの書類を準備するために、弁護士に資料の提出し内容の精査や調査。
もう一つは、会社の財産が特定の債権者などに支払われるのを防ぐために「銀行印」や「会社の預金通帳」などを弁護士が預かって管理する会社財産の保全と、従業員の解雇などの残務処理です。
なお、会社財産の保全では、主に以下の財産や書類を弁護士が管理します。
- 代表者印・銀行印
- 会社の預金通帳
- 手形帳・小切手帳
- 預かり手形
- 請求書・売掛帳など
- 不動産の権利証
- 有価証券・保険証券などの証券類
- 決算書
- その他会社財産に関係するもの
上記の書類などを弁護士に預ける必要があるため、事前に準備しておくようにしましょう。
裁判所に破産申立てする
書類がすべて揃い会社の事前処理が終わった段階で、裁判所に「破産手続開始の申立て」を行います。
必要な書類は基本的に弁護士が作成してくれますが、手続きをスムーズに行うためには、綿密な打ち合わせが必要です。
ちなみに、破産申立ての方法や必要書類については、後ほど詳しく解説しているので、そちらを参照ください。
裁判所による破産開始決定・破産管財人の選任する
必要書類を提出して裁判所で破産申立てを行うと、裁判所が提出されたすべての書類を精査し、破産手続きを開始するかどうかを決定します。
破産手続きの開始が決定すると、会社の財産はすべて「破産財団」となり、会社が処分することができない状態になるため注意が必要です。
なお、破産手続きの開始決定と同時に、裁判所は破産した会社の財産を管理する権限を持つ破産管財人を選任します。
破産管財人は、破産者および債権者と利害関係のない弁護士が選任されるのが一般的です。
破産管財人による財産調査・財産の換価処分などを行う
破産管財人を選任後、破産管財人が弁護士や経営者と打ち合わせや事情聴取を行い、財産を調査します。
調査後、破産管財人により行われるのが会社財産の換価処分です。
ちなみに、破産管財人との打ち合わせは、1回〜2回程度行われます。
債権者集会を開く
破産手続きから2〜3ヶ月程度経過すると、裁判所も同席する債権者集会が開かれて、債権者に対して破産管財人が調査や換価処分の結果が報告されます。
ただし、財産の調査や換価処分が終わっていない場合は、1回目の債権者集会で途中経過の報告がされて、財産の調査や換価処分が終わるまで継続して実施されるので、時間がかかるケースもあることを覚えておきましょう。
債権者への配当する
会社の財産が換価されて最終的に会社に配当財産がある場合には、債権者への配当が実行されます。
とはいえ、配当の手続きはすべて破産管財人が行うため、経営者が協力する必要はありません。
なお、配当できる財産が残らなかった場合は、配当手続きを行わず、破産手続きが終了します。
手続き終結(廃止決定)する
債権者の配当がすべて終了したら、破産手続きは完了です。
破産手続きが終結すると、会社法人は消滅し、債権者に配当した後に残った債務も消滅します。
破産の申立ての方法
破産手続きを開始するためには、裁判所に「破産手続開始の申立て」を行う必要があります。
また、申立てを行う際は、「破産手続開始の申立書」と呼ばれる書面と、「債権者一覧表」や「財産目録」といった必要書類を用意して一緒に提出しなければなりません。
このように、破産手続きは債権や財産などの調査が必要なうえに、必要な書類が多岐に渡るため、準備には手間と時間がかかります。
したがって、破産手続きを行う際は、必要な書類を事前に準備しておくようにしてください。
破産の申立てに必要書類
法人の破産の申立てに必要な書類は、主に以下の書類です。
- 破産手続開始の申立書
- 債権者一覧表
- 財産目録
- 預金通帳のコピー(過去2年分を記帳したもの)
- 直近2期分の決算報告書(付属明細書を含む)
- 代理人弁護士の報告書
- 会社代表者の陳述書
- 法人名義の不動産の不動産登記簿謄本、固定資産税評価証明書(不動産を所有していいる場合)
- 賃貸借契約書(法人名義で事務書を借りている場合)
- 有価証券のコピー
- 訴訟関係資料のコピー(訴訟がある場合)
- 帳簿類(総勘定元帳・売掛台帳・現金出納帳など)
- 雇用関係の資料(雇用契約書・賃金規定など)
- 債権関係資料
- 法人の商業登記簿謄本原本
- 自己破産の申立を決定した取締役会議事録(取締役会がある場合)
ただし、上記の書類は一例であるため、会社によっては必要のない書類もあります。
法人破産手続きのメリット・デメリット
法人破産手続きは一見するとデメリットが多いイメージがありますが、デメリットだけでなく債権者からの支払の請求が止まるなどのメリットもあります。
ここでは、破産の手続きのメリット・デメリットについて解説していくので、破産手続きを行うかで悩んでいる方は、参考にしてください。
メリット
破産手続きの主なメリットは、以下の4つです。
- 毎月の資金繰りの悩みから解放される
- 債権者からの支払の請求が止まる
- 経営者個人の債務も免除される
- 債権者は損金処理ができる
上記のように、破産手続きを行うことで、資金繰りの悩みや債権者からの督促などの悩みを解消することが可能です。
また、経営者の方が連帯保証人として個人的に負債をおっているケースでは、会社破産の手続きと同時に経営者個人も破産手続きを行うことで、経営者個人の負債についても免除されます。
このように、破産後に生活の立て直しがしやすくなるので、会社の資金繰りが行き詰まるなどして会社経営に悩んでいるなら、破産手続きを検討してみてください。
デメリット
破産手続きには多数のメリットがある一方で、以下のデメリットがあるため、注意が必要です。
- 会社や経営者への信用が大きく低下する
- 経営者が連帯保証人になっているなどで経営者自身も自己破産した場合、個人の財産も失うことになる
- 従業員が失業する
- 経営者個人も自己破産した場合、その後一定期間は金融機関からの借入が困難になる
破産手続きは、債務をすべて完済するわけではないので、当然経営者への信用も大きく低下してしまいます。
また、経営者個人が自己破産してしまうと、信用情報機関に登録されてしまうため、10年程度は、金融機関からの借入が困難になり、クレジットカードも使用できません。
債務が免除されるという大きなメリットがある一方で、重いデメリットがあることも理解しておきましょう。
破産手続きを検討するべきタイミング
破産手続きは後回しにしてしまうと、破産手続きを行うための費用が捻出できなくなってしまったり、取引先や従業員に支払う資金がなくなってしまう可能性があります。
上記のような事態を防ぐためにも、破産手続きを行う場合は、後回しにせず適切なタイミングで破産手続きを行うことが重要です。
では、どういったタイミングが適切なタイミングなのでしょうか?
例えば、会社の売上や利益が年々悪化しており会社資金を食いつぶしている状況下で、事業の将来性や業界全体の状況などから経営者が事業の立て直しは難しいと考えている場合は、早ければ早い方が良いと言えます。
また、他にも以下のようなケースでは、破産手続きを検討するべきタイミングです。
- 税金や社会保険料を支払えず滞納している
- 買掛金や事務所の賃料が支払えず滞納している
- 従業員の給料が支払えず遅れている
- 実質的に債務超過に陥っている
上記のように、経営者がさまざまな要素から会社の立て直しが難しいと判断した際は、破産手続きを検討するようにしてください。
経営者はどうなるのか?
法人の破産手続きをした際に、経営者は連帯保証責任以外に、会社を倒産させた責任などは追及されません。
しかし、経営者が会社の借入債務などの連帯保証人になっていると、連帯保証責任から経営者個人が責任をかぶる必要があります。
実際、経営者が会社の債務の連帯保証人になっているケースが多いです。
特に中小企業ではその傾向があるため、会社の破産手続きと同時に経営者個人も自己破産の手続きを行うのが一般的になっています。
なお、自己破産を行うと、以下のようなデメリットがあります。
- 信用情報登録機関に事故情報が5〜10年登録される
- 官報に掲載されてしまう
- 一部を除いた財産が処分されてしまう
- 職業制限により定められた職業に就けない(宅地建物取引士・警備員など)
自己破産すると、上記のようなデメリットがあることを覚えておくようにしましょう。
手続きを行う際の注意点
破産手続きを行う際の注意点を理解しておくことで、手続きをスムーズに行うことができます。
ここでは、破産手続きを行う際の注意点について解説していくので、破産手続きを考えている方は、参考にしてください。
取締役会等の決議や全員からの同意を得られない場合は準自己破産申立てを検討する
準自己破産申立てとは、債務者である法人の取締役や理事が申立人となって破産手続きの開始を申し立てることができる制度です。
通常、法人が破産手続きの申立てを行うためには、理事会や取締役会を開催して、承認決議をとるか、理事や取締役全員から同意を得る必要があります。
会社の定款に「破産手続きを行うには、取締役全員の賛成が必要」などと記載されていることが多いためです。
しかし、破産手続きを行おうとしても、経営者が逃げてしまい連絡がとれないケースや、取締役の中で破産するかどうかで意見がわかれるケースも少なくありません。
上記のような事態になってしまうと、破産手続きが行えず、取引先や従業員、債権者などに多大な迷惑がかかってしまいかねません。
最悪のケースでは、破産手続きをしたくてもするための資金がないという事態も起こり得ます。
こういった最悪の事態にならないために、取締役の1人でも会社の破産手続きが行える「準自己破産」制度が設けられています。
破産手続きを行う必要があるのに、同意が得られない場合は、準自己破産を検討するようにしてください。
債権者の不利益になる行為はしない
破産手続きを行った際に、債権者の不利益になる行為をしてはいけません。
意図的に債権者にとって不利益になる「財産隠し」などを行うと、裁判所から免責が認可されなかったり、詐欺破産罪に問われる可能性があるためです。
なお、債権者の不利益になる行為とは、以下のような行為を指します。
- 換価財産を安くして誰かに売る
- 破産手続き直前に不動産や車の名義変更をする
- 破産手続きを行うつもりなのにさらに借金をする
破産手続きを行う際は、自分の利益を優先して上記のような行為はしないようにしてください。
従業員にきちんと説明する
破産手続きを行う際に、多くの経営者の方が気になるのは、従業員への対応です。
従業員は会社が破産して無くなってしまうと、職を失ってしまうため、大きな不安を抱えることになります。
誠実に破産することについて説明しないと、従業員とのトラブルに発展する事態になりかねません。
トラブルにならないためにも、以下の内容を説明することをおすすめします。
- いつまで雇用できるのか
- 退職金の支払いはどうなるのか
- 即時解雇を行うための解雇予告手当は支給されるのか
上記のように、従業員が抱えている不安を解消できるように、事前に準備しておくことが重要です。
経営者の債務整理や自己破産になる可能性がある
会社の破産手続きを行う際に、経営者が会社の債務の連帯保証人になっていると、経営者も債務を負う必要があります。
このため、債務整理や自己破産の手続きをしなければいけない可能性が高いです。
自宅や車などは処分する必要があり、マンションや一戸建て住宅を所有している場合には、引っ越しをしなければなりません。
とはいえ、自己破産をしたとしても、すべての財産が処分されるわけではありません。
自己破産の手続き開始時に手元にある99万円以下の現金や、生活に必要な財産(家具・家電など)などは手元に残すことができます。
まとめ
破産手続きは、デメリットが多いイメージがあるため、実施するか悩んでいる方は珍しくありません。
しかし、破産手続きには、「債権者からの督促が止まる」などのメリットがあり、前向きに人生を立て直すための手段のひとつと言えます。
このため、本記事では、破産手続きの流れやメリット・デメリット、注意点などについて解説してきました。
破産手続きを検討している方は参考にしてください。