自己破産すると基本的には持ち家は処分されるため、手元に残すことはできません。
しかし、自己破産を行う前なら、持ち家に住み続けるための対策を打つことは可能です。
この記事では、自己破産した場合の持ち家の取り扱いや、自己破産後も持ち家に住み続けることができる方法について解説します。
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自己破産をすると原則持ち家は処分される
自己破産とは、債務者が債務を返済できなくなった際に裁判所に申し立てを行うことで、裁判所から債務の支払い免責してもらう手続きのことです。
債務の支払いを免責してもらえる一方で、99万円を超える現金と20万円以上の価値のある財産は精算する必要があります。
当然、持ち家も精算対象になり、手元に残すことはできません。
なお、自己破産するとその他にも以下のデメリットがあります。
- 信用情報機関に10年間登録される
- 財産が処分され、一定財産しか手元に残せない
- 官報に掲載される
- 警備員や司法書士などの場合は職業制限を受ける
- 裁判所の許可がなく旅行や出張などの移動が制限される
自己破産には上記のような多数のデメリットがあることを理解しておきましょう。
【シチュエーション別】自己破産した場合の持ち家の扱い
自己破産した場合の持ち家の取り扱いは、持ち家の名義や住宅ローンの有無によって異なります。
ここでは、3つのシチュエーション別における自己破産した場合の持ち家の取り扱いについて解説するので参考にしてください。
持ち家が自身の名義で住宅ローンが完済しているケース
持ち家が自身の名義かつ住宅ローンを完済している状態で自己破産すると、裁判所から選任された破産管財人が破産者の財産管理や処分を行います。
そのため、持ち家も破産管財人が業者に査定を依頼するなどして処分されてしまうため、買主への引渡しが完了するとすぐに退去しなければならないので覚えておきましょう。
自己破産をした本人と持ち家の名義が違うケース
自己破産をした本人が居住している家であっても自身の名義ではなく、親や配偶者といった家族名義の場合は処分されることはありません。
破産手続きによる処分の対象となるのは、破産者名義の財産に限られるためです。
ただし、家族が破産者の保証人になっている場合は、その家族も自己破産せざるを得ないかもしれませんその場合は、最終的には家族名義の持ち家を処分することとなります。
また、破産者だけでなく複数の名義で持ち家を所有している場合には、破産者が所有している共有持分のみ、破産管財人が処分することとなります。ただ、実務上は、破産管財人が他の共有持分権者の同意を得て持ち家全部を処分し、その共有持分部分のみを破産財団に組み入れ、最終的に債権者の配当に充当することが多いと思われます。
破産者の共有持分が処分されてしまうと、買主から家賃を請求されたり、場合によっては、退去を求められたりするなどのリスクが生じるため注意が必要です。
破産管財人と交渉し、破産者の共有持分を家族で買い取るなどの対処はできるかもしれません。
持ち家の住宅ローンが完済していないケース
持ち家の住宅ローンが完済していない場合は、住宅ローンを完済した持ち家とは扱いがやや異なりますが、実務上は、破産管財人が処分し、まずは住宅ローン会社に対して住宅ローンを返済し、余剰があればそれは破産財団に組み入れられ、最終的に債権者への配当に充当されます。
しかし、余剰が無いことも多く、そのような場合は、住宅ローンに充当した後、残債が残りますので、残債は他の債権者と同様、最終的な配当を待つこととなります。破産者からみると、住宅ローンが完済している場合と同様に持ち家を手放すことに違いはありませんが、手続きや売却金の利用方法が違うことを理解しておきましょう。
ちなみに、持ち家を担保にして金融機関などから借り入れしている場合も、住宅ローンと同様に保証会社が持ち家を処分し、売却金はその借り入れの返済に充てられます。
自己破産した後も持ち家を残す方法
自己破産をする場合であっても、自己破産より前に、家族に持ち家を購入してもらったり、リースバックを行ったりすることで、持ち家に住み続けることができます。
ここでは、上記の2つの方法について、詳しく解説していくので、自己破産後も持ち家に住み続けたいという方は参考にしてみてください。
家族に持ち家を購入してもらう
自己破産をする前であれば、家族に持ち家を適正価格以上で購入することによって、そのまま住み続けることも可能です。
破産管財人は、否認権という権利を有しており、持ち家を適正価格以下で売却したことが判明すると、その取引を否認し、取引を元に戻す権利を有していますし、財産隠匿とも思われかねませんので、そういうことはやめましょう。
また破産手続きを開始後であっても、破産管財人の同意を得て、家族に持ち家を購入することができれば、そのまま住み続けることも可能です。
しかし、破産管財人から持ち家を購入することになるため、相場価格以上で購入する必要があります。
自己破産においては、破産管財人は、できるだけ多くの資金を回収したうえで、債務者への配当に回す必要があるためです。
リースバックを行う
リースバックとは、持ち家を不動産会社に売却して、その後、不動産会社と賃貸借契約を締結し、自己破産をした後になっても、そのまま持ち家で生活を続けられる方法です。
破産手続きを開始後であっても、破産管財人の同意を得て、不動産会社が持ち家を購入し、その不動産会社から賃借をすることができれば、そのまま住み続けることも可能です。
ただし、その持ち家を売却して得た資金は、破産管財人が破産財団に組み入れ、債権者への配当に充当しますので、破産者の元に戻ってくることはありません。
なお、リースバックの場合、不動産会社に家賃を支払い続ける必要があるといったデメリットもあります。
リースバックの利用を検討する際は、自己破産後も家賃を支払うことができるか確認しておきましょう。
持ち家を所有している場合に自己破産する際の注意点
持ち家を所有している際に自己破産するなら理解しておくべき注意点があります。
ここでは、持ち家を所有している場合に自己破産する際の2つの注意点について解説します。
ローンの返済が終わっていない場合は任意売却を検討する
住宅ローンの返済が終わっていない状態で自己破産を検討しているなら、任意売却も検討するようにしてください。
持ち家を任意売却することで、競売にかけられるよりも相場に近い金額で持ち家を売却でき、自己破産の手続きが同時廃止事件になる可能性がありますし、不動産価格が上昇している場合などは、そもそも自己破産をしなくてもよい可能性もあるためです。
なお、自己破産には「同時廃止」「管財事件」の2つの種類があり、同時廃止では破産管財人が選任されずに、破産手続き開始と同時に破産事件を廃止する手続きを指します。
一方で、管財事件は、破産者が、一定額以上の処分すべき財産を持っているケースや法人の場合や破産直前の取引の検証が必要な場合など、破産者の財産処分や債権者への配当が必要な場合や「免責不許可事由」の検証が必要なケースで選択される方法です。
上記2つを比較した際、同時廃止は書類審査だけで手続きが終わるため、手続きの期間が短く費用も安価になります。
このため、同時廃止手続きにできれば、手続きにかかる時間や費用を抑えることが可能です。
また、持ち家を任意売却することで、相場に近い価格で売却できる、住宅ローンの残債が少なくなり、連帯保証人の負担を軽減できる、そもそも自己破産をする必要がなくなるといったメリットもあるため、任意売却を検討するようにしてください。
なお、法人の破産や法人を経営する代表者個人が破産した場合は必ず管財事件になるので覚えておきましょう。
持ち家の名義は変更しない
自己破産を予定している状態で、持ち家の処分や名義変更することはできません。
破産管財人は、名義変更された不動産の名義を一定の条件に基づき破産者に戻すことができる「否認権」を行使することができるので覚えておきましょう。
なお、持ち家の名義変更をした場合、詐欺破産罪として刑事罰の対象になる可能性もあるため注意が必要です。
また、場合によっては、債務の返済の免責の許可がおりず、自己破産した意味がなくなるリスクもあります。
ちなみに、上手くやればバレないだろうと安易に考える方もいますが、自己破産では不動産登記簿を必ず確認されるため、すぐにバレるので絶対に行わないようにしてください。
自己破産で持ち家が処分された後はどうなる?
自己破産で持ち家が処分されて持ち家を退去する前に住む場所を探す必要があります。
その際に「自己破産しても部屋の賃貸借契約ができるのか?」という疑問を持つ方がいるかもしれませんが、結論から言うと自己破産はしても賃貸借契約を締結することは可能です。
しかし、信用情報機関に加盟している家賃保証会社を利用する場合、信用情報に事故情報が記載されるため、審査に落ちる可能性があります。支払い能力がないと見なされる可能性があるためです。
とはいえ、支払い能力の有無の判断は自己破産だけで判断するわけではないため、安定した収入があれば契約できるでしょう。
なお、審査に落ちてしまった場合は、信用情報機関に加盟していない家賃保証会社を利用している物件か公営住宅がおすすめです。
自己破産をしていても、賃貸借契約できる可能性が高いため検討してみてください。
自己破産申立前に債務整理できれば持ち家を手放さなくてもすむ
自己破産を行う前に「任意整理」ができたのなら、持ち家を残すことが可能です。
したがって、持ち家を手放したく無い方で、任意整理ができる場合は、これらの方法を検討するといいでしょう。
その他、個人再生の「住宅ローン特則(住宅資金特別条項)」を利用する方法によっても、持ち家を残す方法もあります。
ここでは、「任意整理」と「個人再生」を利用して持ち家を残す方法について詳しく解説します。
任意整理を行う方法
任意整理は、弁護士が債権者と交渉を行い、返済期限を延ばしたり利息をカットしたりする債務整理手続きのひとつです。
返済の負担を減らせるだけでなく、整理する債務を選択できるという特徴があります。
このため、住宅ローンを債務整理の対象から外すことで住宅ローン以外の債務を整理し、持ち家を残すことが可能です。
ただし、任意整理には、以下の4つのデメリットがあります。
- 信用情報機関に5年間登録される
- 債権者の同意がないと債務整理できない
- 安定した収入がないと利用できない
- 債務が大きくは減らない
任意整理は、債務者の意思で債務整理できない可能性があることが最大のデメリットです。
このため、万が一、任意整理が利用できなかった場合の対応も考えておくようにしましょう。
個人再生の「住宅ローン特則(住宅資金特別条項)」を利用する方法
個人再生とは、債務者が裁判所に対して残債の返済能力がないことを申告し、認可決定を受けることによって債務が減額される債務整理のひとつです。
住宅ローンがある場合、住宅ローン以外の債務を個人再生によって減額・分割払いできる制度である住宅ローン特則(住宅資金特別条項)を利用することで、持ち家の所有権を維持したまま債務を整理することができます。
住宅ローン特則を利用すれば、住宅ローン以外の債務のみを最小化することができ、個人再生による分割払いの整理も可能です。
ただし、個人再生には、以下のデメリットがあります。
- 官報に載る
- 信用情報機関に5~10年記録される
- 債務が全て免責されるわけではない
これらの欠点はあるものの、個人再生は持ち家を維持できるというメリットがあるため、個人再生で債務問題を解決できるならおすすめです。
自己破産で弁護士に相談するメリット
自己破産で弁護士に依頼するメリットは以下の3つです。
- 自己破産以外の解決方法を提案してくれる可能性がある
- 弁護士が手続きに着手した時点から免責決定まで債務の催促を止められる
- 債務整理の手続きをサポートしてくれる
上記のようなメリットがあるため、自身で手続きを行うのが難しい方や債権者からの催促を止めたい方は弁護士への依頼を検討してください。
まとめ
自己破産をすると持ち家を処分することになりますが、手続きが完了する前なら持ち家に住み続けられるようにすることが可能です。
このため、この記事では自己破産した場合の持ち家の扱いや、自己破産後も持ち家に住み続ける方法にも言及しました。
自己破産を検討している方は、この記事を参考にしてみてください。