自己破産を検討するときは、免責を受けて債務を免れ、経済的に再生する基礎を得たいと考えることが多いと思います。
しかし、免責不許可事由が存在すると、免責を受けられず借金をゼロにすることができない場合もあります。
そのため、免責不許可事由に該当するか否かは、自己破産を選択する上で重要なポイントです。
この記事では、免責不許可事由について詳しく解説していきますので、自己破産について検討する際の参考にしてください。
Table of Contents
免責不許可事由とは
免責不許可事由とは、破産法に規定されている免責を受けられない場合のことです。
破産法では、免責不許可事由が存在しない場合に裁判所が免責許可の決定をするという構造になっています。
免責とは債務の返済を免除される制度のことで、非免責債権と呼ばれる一定の債権を除いて、免責がされることで破産者は債権者に支払いをする法的な義務を免れます。
この免責を受けることが自己破産手続の目標ですが、免責不許可事由があると免責が許可されず、借金をゼロにできない結果になるおそれがあります。
免責不許可事由の種類
破産法252条1項には11の免責不許可事由が列挙されています。
免責不許可事由の種類は、大別すると以下の三種類に分類することができます。
- 破産者が意図して破産債権者を害したとみなされる場合(例:不当な破産財団価値の減少行為など)
- 破産手続で課せられた義務を履行せず、手続の進行を妨げる場合(例:調査への協力義務に違反する行為など)
- 政策的に免責を不許可とする場合(例:7年以内の免責取得等)
ここでは、個々の免責不許可事由について解説します。
不当に破産財団の価値を減少させる行為
債権者を害する目的で、破産財団に含まれて債権者に配当されるべき財産を、隠したり破壊したりすることや、廉価で売却するなど債権者にとって不利益な処分をすることで、財産価値を不当に減少させる行為をする場合です。
具体的には、不動産や自動車を家族などの他人の名義に変更したり、預貯金の口座を隠したりする行為などが典型的です。
行為の時期は破産手続開始の前後を問いませんので、破産手続開始の前にした行為によって免責を不許可とされる場合もあります。
例えば、不動産を家族に売却して名義変更をし、その後に自己破産の申立てを行った場合にも免責不許可となる可能性があります。
なお、財産隠しなどを行うと免責不許可事由に該当するだけでなく、詐欺破産罪(破産法265条1項)にも該当して刑罰を科せられることがありますので注意が必要です。
不当に債務を負担する行為
破産手続が開始されるのを遅らせる目的で、著しく不利益な条件の債務を負担したり、クレジットカードで購入した商品を低価格で換金したりする行為は免責不許可事由になっています。
すでに支払不能の状態になっている場合、資金を調達するために利息制限法に反するような高い利率での借入をしたり、いわゆるカードショッピング枠現金化をしたりすることは免責不許可事由に該当するおそれがあります。
不当な偏頗行為
特定の債権者に対する債務について、その債権者に特別な利益を与える目的、または他の債権者を害する目的で、義務がないにも関わらず担保を設定することや返済をすることが不当な偏頗行為となります。
例えば、他の債権者には返済をしないのに、家族や友人を優先して返済を行うと不当な偏頗行為として免責不許可になる可能性があります。
浪費またはギャンブル等の射幸行為
浪費や射幸行為をすることは免責不許可事由になります。
収入に見合わないような高級品を購入することや、飲食や遊興に過度の支出をすることが浪費の典型です。
射幸行為とは偶然の利益を得ることを目的とする行為を意味し、競馬・競輪・競艇やパチンコなどのギャンブルの他に、株式取引や外国為替証拠金取引(FX取引)も含まれます。
詐術を用いて信用取引をする行為
支払不能の状態にあることを知りながら、支払いが可能であると信じさせるために相手方を騙して借入をしたりローンで物品を購入したりすることが、詐術を用いて信用取引をすることにあたります。
行為の時期は、破産手続開始の申立てがあった日の1年前の日から、破産手続開始決定があった日までの間です。
この期間に詐術による信用取引行為があった場合には、免責不許可事由に該当する可能性があります。
帳簿を隠す等の行為
業務や財産の状況に関する帳簿や書類等を隠すことや、偽造・変造することが免責不許可事由になります。
具体的な帳簿や書類としては、確定申告書、決算書、出納帳、売掛帳、買掛帳、仕訳帳、契約書などがあります。
虚偽の債権者名簿を提出する行為
債務者は、全ての債権者について記載した債権者名簿を裁判所に提出する必要があります。
しかし、債権者を害する目的で意図的に特定の債権者を債権者名簿に記載しなかったり、実在しない架空の債権者名を記載したりして、虚偽の債権者名簿を作成して提出すると免責不許可事由になります。
なお、過失により本来記載すべき債権者の一部を記載していなかった場合は免責不許可事由にならず、脱落した債権者の債権のみが非免責債権となります。
裁判所が行う調査に協力しない
破産手続上では裁判所が自ら調査をすることができ、破産管財人に調査をさせることもできます。
破産者が、この調査に対して説明を拒んだり、虚偽の説明をしたりすることが免責不許可事由に該当します。
破産者は、裁判所の調査に誠実に協力することを心がける必要があります。
管財人等の業務を妨害する行為
不正の手段によって、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理、保全管理人代理の職務を妨害すると免責不許可事由になります。
破産管財人等に対して暴力や脅しを用いる場合だけでなく、理由がないにも関わらず財産の引渡しを拒んだりする場合なども妨害にあたります。
7年以内に再度の免責を取得しようとする行為
破産者が無制限に免責を得られるとすると、債権者の利益は大きく害されることになります。
また、債務者が安易に繰り返し自己破産をすることで、債務者が真に経済的に再生することが困難になるおそれがあります。
このため、免責を再び受けるためには一定の制限が課せられていて、7年以内に免責等を受けたことがある場合が免責不許可事由となっています。
制限の対象となっているのは以下の3つです。
- 免責許可の決定が確定した日から7年間
- 給与所得者等再生における再生計画の認可決定が確定した日から7年間
- 給与所得者等再生や小規模個人再生におけるハードシップ免責にかかる再生計画の認可決定が確定した日から7年間
これらに該当する場合には原則として免責が得られません。
破産手続上の義務に違反する行為
破産法には以下のような破産者の義務が定められています。
- 破産者の説明義務(40条1項1号)
- 重要財産の開示義務(41条)
- 免責についての調査に協力する義務(250条2項)
破産者が、これらの義務やその他の法律に定められた義務に違反した場合が免責不許可事由となります。
例えば、破産者が破産管財人や債権者集会に求められた説明をしない場合や、財産の内容について記載した書面を裁判所に提出しない場合、裁判所や破産管財人が行う免責についての調査に協力しない場合などが、破産手続上の義務に違反する行為となります。
免責不許可事由があっても免責される場合
免責不許可事由が存在しても、必ずしも免責不許可の決定がされるわけではありません。
裁量免責という制度があるため、免責不許可事由があっても悪質性が高くない場合は免責される可能性があります。
実際には、免責不許可事由があっても多くの場合で裁量免責が行われています。
日弁連の調査によれば、免責が許可されたのは2014年が96.44%、2017年が96.77%、2020年が96.85%と高い水準であり、免責不許可はどの年においても1%未満となっています(日本弁護士連合会消費者問題対策委員会「2020年破産事件及び個人再生事件記録調査」)。
以下で裁量免責とはどのような制度なのか解説していきます。
裁量免責とは
裁量免責とは、免責不許可事由が存在する場合であっても、裁判所が一切の事情を考慮して免責をすることが相当であると認めたときに、裁判所の判断で免責をすることができる制度であり、破産法252条2項に定められています。
裁量免責の制度があるため、免責不許可事由に該当しても免責を受けられる可能性が残されています。
裁量免責の基準
裁量免責の基準は、破産法にも具体的に定められているわけではなく、裁判所が一切の事情を考慮して判断することが定められているに過ぎません。
裁量免責の一般的な基準は存在しませんが、裁判所は以下のような事情を重視していると考えられます。
免責不許可事由が重大なものか否か
免責不許可事由が重大でなく軽微なものである場合は、裁量免責を受けられる可能性があるといえます。
例えば、財産隠し等を行って詐欺破産罪で有罪となった場合や破産手続の妨害を繰り返す場合などは、重大な免責不許可事由があるとして裁量免責を受けられなくなるおそれがあります。
破産者が誠実に破産手続に協力しているか否か
破産者が手続に協力しているか否かは裁量免責の判断で重視されます。
破産者が裁判所から質問を受けても回答しようとしなかったり、自分に不利益な事実を隠そうとしたりする場合や、求められた書類を提出しようとしなかった場合などは、非協力的であるとして裁量免責が認められなくなる可能性があります。
破産者は、裁判所や破産管財人等の指示に従って、誠実に破産手続に協力することが重要です。
破産者が経済的に再生するために真摯に努力しているか否か
破産者が自己破産に至ったことを反省した上で、経済的に再生する意欲を示しているか否かが重視されます。
安定した収入を得られる職業に就いたり支出を減らしたりして家計の収支を改善し、生活を再建するために真摯に努力することが重要になります。
免責不許可事由があると費用と時間がかかる場合がある
自己破産の手続には、大きく分けて管財事件と同時廃止事件の2種類があります。
管財事件では破産管財人を立てて手続を進めるため、費用と時間がかかります。
免責不許可事由がある場合には、破産管財人が免責不許可事由や裁量免責の判断材料についての調査を行うため、原則として管財事件として扱われることになります。
ここでは、管財事件の概要を同時廃止事件と比較しながら説明します。
管財事件と同時廃止事件
管財事件とは、破産管財人を選任し、破産管財人が破産者の財産を調査・管理・処分して債権者に配当を行う手続です。
免責不許可事由が存在することが明らかで、その程度についても軽微とはいえない場合は、破産管財人が免責調査をするために管財事件となります。
また、裁判所により基準が異なる場合がありますが、33万円以上の現金がある場合や、現金以外で20万円以上の財産を持っている場合も管財事件となります。
その他、自営業者や法人の代表者が自己破産をする場合も原則として管財事件になります。
これに対し、同時廃止事件とは、破産管財人を選任せずに、破産手続開始決定と同時に破産手続が廃止される場合をいいます。
同時廃止事件は、管財事件に比べて短期間で終了し費用も低額であるという特徴があります。
管財事件の費用と期間
管財事件では、負債の総額に応じて50万円以上を裁判所費用として納付する必要があります。
また、期間については6ヶ月から1年程度がかかります。
これに対して、同時廃止事件では、裁判所費用は1万円から5万円程度です。
期間は3ヶ月から6ヶ月程度と、管財事件に比べて短くなっています。
免責不許可事由がある場合は原則として管財事件になりますので、費用と時間がより多くかかることになります。
免責不許可事由と非免責債権の違いについて
免責不許可事由と類似した用語に、非免責債権というものがあります。
免責不許可事由は、その事由が存在した場合は、破産者という人を単位として免責が受けられなくなるものです。
例えば、免責不許可事由である財産隠しを行ったために、破産者が免責されなかったということになります。
これに対して、非免責債権とは、破産法で定められた免責の効果が及ばない債権のことです。
非免責債権は、個々の債権の単位で免責がされないものです。
例えば、租税等の請求権は非免責債権であるために免責されないことになります。
破産者が免責を受けられた場合であっても、非免責債権については免責されません。
破産法には7種類の非免責債権が規定されていますので、以下でそれぞれを解説します。
非免責債権の種類
非免責債権の種類は、破産法253条1項各号に定められています。
租税等の請求権
租税等の請求権には、所得税などの国税、市町村民税などの地方税の他、国民健康保険料、国民年金保険料なども含まれます。
破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
「悪意で加えた」の悪意とは、単なる故意を指すのではなく、破産者が積極的に危害を加える意図を意味すると一般的に考えられています。
例えば、詐欺などの犯罪行為が悪意で加えた不法行為に該当すると考えられます。
破産者が故意または重大な過失により加えた、人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
一般的な不法行為の成立要件は故意または過失ですが、ここでは故意または重大な過失に制限されています。
例えば、暴走運転などが重大な過失に含まれます。
親族関係に関する請求権
夫婦間の協力・扶助の義務、婚姻費用分担義務、子の監護に関する義務、扶養義務、これらの義務に類するもので契約に基づく義務は、免責されません。
雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権および使用人の預り金の返還請求権
従業員の給料や、積立金のような従業員からの預り金は、非免責債権となっています。
破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権
破産者が知りながら債権者名簿から一部の債権者を記載しなかった場合は、その債権が非免責債権となります。
なお、債権者名簿に記載されなかった債権者が、破産手続開始決定があったことを知っていた場合は、その債権者については非免責債権となりません。
罰金等の請求権
罰金等の請求権には、罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金、過料の請求権が含まれます。
これらについては、免責の効果が及びません。
免責不許可事由がなくても自己破産できない場合
免責不許可事由がある場合には、裁量免責を認められない限り自己破産をしても免責を受けられない結果になります。
一方で、免責不許可事由がなくても自己破産できない場合や、免責の効果が得られない場合がありますので注意が必要です。
具体的には、予納金を納付しない場合や債務の返済が可能な場合、債務のすべてが非免責債権の場合が挙げられますので、それぞれについて解説します。
予納金を納付しない場合
自己破産をするためには、裁判所に予納金を納付する必要がありますので、予納金を納めないと手続をすることができません。
破産法には、「破産手続の費用の予納がないとき」は破産手続開始決定ができないことが定められています(破産法30条1項1号)。
なお、破産法23条1項前段の規定によって破産手続の費用が仮に国庫から支弁される場合は、予納金を納められなくても自己破産手続をすることができます。
債務の返済が可能な場合
破産手続を開始するためには、債務者が支払不能であることが必要です(破産法15条1項)。
また、支払不能とは、債務者が支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいいます(破産法2条11項)。
一般的には、毎月の収入から住宅費を引いた金額を返済に回したとして、3年間で債務を返済できない場合には支払不能にあたると考えられています。
債務者が支払不能にあたらず、債務の返済を続けることが可能であると認められた場合は自己破産をすることができません。
債務のすべてが非免責債権の場合
非免責債権は、自己破産による免責の有無に関わらず免責されない債権です。
そのため、債務のすべてが、税金、重大な過失による交通事故の損害賠償請求権、養育費、従業員の給料などの非免責債権である場合には、自己破産をしても支払いを免れることができません。
免責不許可事由に該当して裁量免責もない場合の対処方法
免責不許可事由に該当して裁量免責もない場合には、大きく分けて2つの対処方法があります。
1つ目は、異議申立てを行うことにより、免責不許可の決定について争う方法です。
2つ目は、自己破産以外の債務整理手続を選択する方法です。
以下では、それぞれについて解説します。
異議申立てをする
免責不許可の決定がされた場合には、即時抗告をすることで異議申立てができます。
即時抗告の期間は、免責不許可決定が記載された裁判書の送達を受けた日から1週間です。
即時抗告をした後は、高等裁判所で原審の判断について争うことになります。
個人再生
自己破産以外の選択肢として、まず個人再生があります。
個人再生とは、裁判所に再生計画を認可してもらい、債務を減額してもらった上で原則として3年間で返済することにより、残りの債務が免除されるという手続です。
個人再生では、債務が5分の1から10分の1に減額される特徴があります。
自己破産では家を残すことができませんが、個人再生では住宅ローンの特則を利用することで家を残すことも可能です。
自己破産の場合とは異なり、自動車を残すこともできる場合があります。
また、自己破産をすると弁護士、税理士等の士業や、警備員、生命保険募集人などの一定の職種に就くことができなくなりますが、個人再生ではこのような制限がないため仕事を続けることが可能です。
任意整理
個人再生以外には、任意整理の方法もあります。
任意整理とは、弁護士が債権者と交渉して利息や遅延損害金を減免してもらった上で、3年から5年をかけて返済を行う方法です。
自己破産や個人再生をすると保証人に請求がされます。
しかし、任意整理では自己破産や個人再生と異なり、対象とする債権者を選択できますので、保証人がいる債権を対象から外すことで、保証人に影響を与えずに柔軟な解決を図れる特徴があります。
まとめ
この記事では免責不許可事由について解説してきました。
債務者は、免責不許可事由に該当するような行為をしないことが重要です。
また、仮に免責不許可事由が存在しても、裁量免責を得られる可能性があるため適切な行動をすることが大切になります。
弁護士が関与することで、免責不許可事由についても助言をもらいながらスムーズに手続を進めることができますので、気軽に相談してみると良いでしょう。