借入などの債務を返済できなくなったときには、最終的な手段として「自己破産」が用いられます。キャッシングなど個人的な債務によって至るほか、経営者が企業の連帯保証人となっていることにより、個人的な自己破産に追い込まれるケースも少なくありません。
自己破産の手続きをおこなうと債権者への配当のため、所有する一切の財産は破産財団に属することになり、破産管財人の管理・処分下に置かれます。そのため財産を残すために、「財産隠し」をおこなう方もいます。しかし財産隠しは、法律に違反する行為です。
本記事では自己破産や財産隠しとみなされる行為、財産隠しがバレる理由や発覚した際のリスクについて解説します。自己破産や財産隠しについて詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
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自己破産時に財産隠しとみなされる行為
破産を申立して破産手続をおこなうと、会社や個人で所有する財産は清算されることになります。そのため、破産を検討する際、「少しでも財産を残したい」という方も少なくないでしょう。しかし財産を残したいからといって、故意に財産の隠蔽などをおこなうと、債権者は弁済が受けられず、不利益が生じてしまいかねません。
そのため、破産手続時に財産を隠すような行為は「財産隠し」と呼ばれ、法律でも規制されています。財産隠しをおこなうと罰則の対象となるため、まずはどのような行為が該当するか把握しておきましょう。
自己破産とは?
自己破産とは、減収や失業など生活面の変化により債務の返済が困難になった方が、所有する財産を清算する手続きのことです。
破産法第二条 (定義)
この法律において「破産手続」とは、次章以下(第十二章を除く。)に定めるところにより、債務者の財産又は相続財産若しくは信託財産を清算する手続をいう。 |
裁判所に申立をおこなうことで、財産の清算と債権者への配当を実施し、残った借金などは免除されます。破産手続きは、大きく分けて「破産手続」と「免責手続」の2種類があります。
破産手続は所有する財産を換価し、債権者へ配当する手続きです。この手続きを実施することにより、はじめに現在の負債をできる限り清算します。
しかし破産手続をおこなっても、負債が残ってしまうことがあるでしょう。残った負債を免除するためにおこなうのが、免責手続です。法人は、破産すると消滅し、残債の帰属主体が存在しなくなりますが、個人は消滅しないため免責手続きが必要となります。この2つの手続きを、一般的に「破産」と呼んでいます。
自己破産申立前の名義変更
破産手続では、家族や会社関係者の財産は清算対象とならないため、破産の申立前に財産の名義変更をしようと考える方もいるかもしれません。しかし、破産の申立前の名義変更は、財産隠しとみなされる場合があります。
- 不動産の名義を親族へ変更する
- 自動車やバイクの名義を親族に変更する
- 生命保険の契約者を親族に変更する
上記のような行為を破産の申立前におこなうと、財産隠しのための名義変更とみなされる場合があるため控えましょう。
自己破産申立前の資金移動
破産申立前に資金を移動させる行為も、財産隠しとみなされる場合があります。全ての資金移動が該当するわけではありませんが、財産隠しに該当する可能性がある資金移動は以下のような行為です。
- 預貯金を家族、もしくは他者名義の口座へ移動させる
- 口座から多額の現金を引き出す
自己破産をおこなうときには、自宅や知人宅に現金を隠す方もいます。過去にもそういったケースが発生していることから、口座から多額の現金を引き出す行為は、財産隠しとみなされることがあります。
財産目録への虚偽記載・記載漏れ
破産の申立をおこなう際は、「財産目録」を提出しなければなりません。「財産目録」とは、保有する全ての資産と評価額を記載した書類です。個人の財産状況を明らかにするための書類であるため、虚偽の記載や記載漏れがあると財産隠しが疑われます。
そのほか財産目録と関連する書類の提出を拒んだり、改ざんしたりする行為も、財産隠しとみなされるため注意が必要です。
不相当な財産分与
破産申立前の不相当な財産分与も、財産隠しとみなされる場合があります。よくあるケースとしては、いわゆる「偽装離婚」などです。
夫婦で離婚が成立した場合、財産分与が認められています。離婚における財産分与の解釈については、以下のとおりです。
(引用:法務省「財産分与」) |
破産を申立する方のなかには、この財産分与を利用し、財産隠しをおこなう人もいます。そのため財産隠しを目的に離婚したことが発覚した場合、および離婚した配偶者へ不相当な財産分与があったときは、財産隠しとみなされます。
自己破産時に財産隠しがバレる理由
破産が成立すると債権者は債権が回収不能(貸し倒れ)となるため、破産手続時には、公平さの観点から徹底的に財産の調査を実施するのが基本です。財産隠しをしたとしても、発覚してしまうケースがほとんどです。
財産隠しがバレる理由として、以下のような調査時によく発覚します。
裁判所による調査
破産の申立がおこなわれると、裁判所は「管財事件」か「同時廃止事件」のいずれかにて、破産手続を開始します。それぞれの概要については、以下のとおりです。
管財事件 |
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同時廃止事件 |
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公平さの観点より、管財事件を適用するのが原則です。しかし破産申立人のなかには、配分する財産および、破産管財人への報酬の支払いさえ困難な人もいます。そういった際に適用されるのが、同時廃止事件です。
破産の申立がおこなわれると、裁判所は管財事件と同時廃止事件のいずれに該当するか判断するために、以下のような調査を実施します。
申立書類の審査
破産申立時には、以下のような書類の提出が必要です。
個人 | 法人 | |
自己破産申立書類 |
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添付資料 | 預貯金通帳、源泉徴収票、給与明細、公的給付金の受給証明書など | 決算書、預貯金通帳 |
提出が必要な書類は財産目録のほか、各種証明書などの提出も求められることになり、提出後は裁判所で厳しくチェックされます。財産や資金の流れに不審な点があれば、追加資料を求められることになるため、財産目録に虚偽の内容を記載しても、発覚してしまうのがほとんどです。
なお、追加で資料の提出を求められた際、拒否すると破産手続が開始されないこともあります。破産手続を進めたいのであれば、請求された書類は必ず提出しましょう。
裁判官との面談
裁判所では、管財事件か同時廃止事件を判断するために、裁判官が破産申立人と面談をおこないます。この面談のときに、財産隠しが発覚するのもよくあるケースです。
裁判官は面談時、破産申立人の収入や負債、財産状況について質問します。財産隠しをおこなっていると当然、回答に矛盾が生じるでしょう。裁判官は、この矛盾を見逃しません。
不審な点が見つかると、裁判官は更なる調査を実施します。財産隠しをしたとしても、結果的にはバレてしまうのが大半です。
「破産管財人」による調査
管財事件と判断された場合は、裁判所から選任された「破産管財人」が破産申立人の財産を調査します。破産管財人の調査で財産隠しがバレるケースとしては、以下のような調査です。
財産の調査
破産管財人は、以下の項目について調査を実施します。
調査対象 | 主な調査方法 |
現金 |
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預金口座 |
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不動産 |
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自動車 |
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保険 |
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債権 |
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その他 |
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破産管財人は上記について、さまざまな方法で調査をおこなうため、どれだけ巧妙に財産隠しをしたとしても、発覚してしまうのがほとんどです。
申立人と関係者への事情聴取
破産管財人は、申立書類や添付書類に沿って、破産申立人やその関係者に事情聴取をおこなうことが認められています。破産管財人に認められた説明請求権の範囲は、以下のとおりです。
- 破産申立人本人
- 破産申立人の代理人(弁護士など)
- 破産申立をおこなった企業の役員(破産申立人が法人の場合)
- 破産申立をおこなった企業の従業員(破産申立人が法人の場合)
破産管財人は事情聴取の際に不審な点があったり、追加資料の提出に応じなかったりすると、「何か隠しているのではないか?」と疑い更なる調査を実施します。
財産隠しをおこなうと、関係者間で口裏合わせをしていたとしても回答に矛盾が生じることになり、結局は虚偽が発覚してしまうでしょう。
郵便物の確認
破産管財人は、破産申立人の郵便物を確認して良いことが、破産法によって認められています(破産法第82条)。破産申立人の全ての郵便物は回送嘱託の扱いとなり、一旦破産管財人へ転送されます(破産法第81条)。
証券会社や保険会社からの郵便物も内容までチェックされるため、金融商品や保険の契約者となっている際は、清算できる財産を所有していることが発覚してしまうでしょう。郵便物は破産管財人が確認したあと、破産申立人へ渡されます。
「申立代理人」による調査
自己破産をおこなう際は、弁護士へ依頼する方も少なくありません。破産申立人に代わって申立をおこなう者を「申立代理人」といい、本人に代わって破産手続を進めてくれます。
申立代理人は破産申立人本人に代わって手続きをおこなうため、財産や現状などを把握しておかなければなりません。そのため破産申立人に対して、聴取や財産の調査をおこないます。
申立代理人がおこなう聴取や財産の調査は当然、裁判所・破産管財人が実施する聴取や調査とほぼ同じ内容です。財産隠しをおこなっていないかについても、同様にチェックされます。破産申立人のなかには、「申立代理人に任せれば財産隠しがバレないだろう」と思っている方もいるようですが、そのようなことはありません。
詳しくは後述しますが、財産隠しは「破産犯罪」と呼ばれ、破産法で禁じられている行為です。そのため申立代理人が財産隠しを黙認してくれたり、調査が甘くなったりすることはありません。聴取や調査で不審な点があると、厳しく追及されることになり、結局は隠した財産が発覚してしまうでしょう。
自己破産で財産隠しが発覚した際のリスクや罪
自己破産時に財産隠しをおこなった場合、以下のようなリスクや罪があります。
「免責不許可事由」に該当することになる
財産隠しは、「免責不許可事由」に該当する行為です。免責不許可事由とは、自己破産で免責が認められない事由のことをいいます。免責許可の決定を受けるには要件があり、満たしていない場合は、借金などが免除されません(破産法第252条)。
財産隠しは、破産法第252条の1項に該当しています。また財産隠しを目的とし、帳簿や書類を改ざん・捏造すると破産法第252条の6項に該当することとなり、いずれにせよ免責不許可事由に該当します。
なお、破産法252条1項に明記されている「破産財団の価値を不当に減少させる行為」とは、財産を隠す・壊す・他者へ譲るなどの行為のことです。自動車や土地の名義変更や譲渡などが含まれます。
「詐欺破産罪」が成立する可能性もある
悪質な財産隠しと判断された場合には、「詐欺破産罪」が成立することになり、罰金と懲役刑が科せられます。
破産法第二百六十五条 (詐欺破産罪)
破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者(相続財産の破産にあっては相続財産、信託財産の破産にあっては信託財産。次項において同じ。)について破産手続開始の決定が確定したときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。情を知って、第四号に掲げる行為の相手方となった者も、破産手続開始の決定が確定したときは、同様とする。 一 債務者の財産(相続財産の破産にあっては相続財産に属する財産、信託財産の破産にあっては信託財産に属する財産。以下この条において同じ。)を隠匿し、又は損壊する行為 二 債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為 三 債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為 四 債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為 |
一は故意に財産を隠したり、壊したりすることです。意図的とみなされない紛失などは、該当しません。
二の「債務の負担を仮装する」とは、債務者が債務を負担しているように見せかけることです。実際は譲渡していないのに第三者への譲渡契約書を作成したり、実際には金銭を借りていないのに貸付契約書を作成したりする行為が該当します。
三は財産の価値を損壊以外の方法で、減損させる行為のことです。たとえば債務者の財産となる土地の上に不要な建物を建設し、土地の価値を下落させるなどが該当すると考えられます。
四は隠匿や損壊、および仮装などをおこなっていなくても、債権者に不利益を与えるような行為は、詐欺破産罪に該当することを定めたものです。財産を無償で贈与したり、著しく安価で売却したりする行為などが挙げられます。
詐欺破産罪が成立すると1ヶ月以上10年以下の懲役、もしくは千万円以下の罰金に処されます。なお、上記の行為は破産手続開始の前後を問いません。破産手続が開始されたあとであっても、該当する行為をおこなうと詐欺破産罪が成立します。
そのほか、債務者の破産手続の開始が決定されたことを知りながら、債権者を害する目的で債務者の財産を取得、もしくは第三者に取得させた者も詐欺破産罪の対象です(破産法265条2項)。
ただし破産管財人の承諾、もしくは正当な理由が認められるときは、詐欺破産罪の対象にはなりません。加えて第二百六十五条2項は、破産手続の開始決定後、または保全管理命令後におこなった行為に限定されます。
自己破産で財産隠しがおこなわれた際に行使できる権利とその時効
債務者が自己破産時に財産隠しをおこなうと、債権者に不利益が生じるでしょう。そのため破産管財人や債権者には、財産隠しがおこなわれた際、行使できる一定の権利が認められています。財産隠しがおこなわれた際に、行使できる権利としては、以下のようなものが挙げられます。
否認権の行使
否認権とは、破産者の申立前の行為によって債権者に不利益が生じる場合、破産管財人がその行為を否認し無効とすることができる権利です(破産法第160条)。
否認権が行使されると、破産申立人がおこなった行為はなかったものとして扱われ、流出した財産は回収されたのち、主に債権者へ配当などに充てられます。
ただし否認権には時効が設けられており、期限は破産手続開始から2年もしくは、破産申立人が行為をおこなったときから10年です(破産法第176条)。
詐害行為取消権の行使
詐害行為取消権とは、債権者が債務者のおこなった行為について、一定の要件を満たせば取り消すことができる権利のこと(民法424条)。詐害行為取消権が行使されると、詐害行為に関する行為が取り消されることになり、元の状態に戻ります。具体的な効果については、以下のとおりです。
- 全ての債務者・債権者間において、詐害行為が取り消される(民法425条)
- 財産の返還、または価額の償還請求ができる(民法424条6項)
- 受益者・転得者の権利が復活する(民法425条2項、3項、4項)
また債権者は権利を行使することで、受益者または転得者に対して、財産の返還を請求できます。財産の返還が困難な場合は、価額の償還を請求することが可能です。
なお、詐害取消請求権の時効は、債権者が詐害行為もしくは債務者の害意を知ったときから2年間、または詐害行為がおこなわれたときから10年間です。
自己破産時に残る財産
自己破産は、債務者の財産の適切な清算および、債務者の経済活動の再生が目的です。破産法でも自己破産の目的について、以下のように規定されています。
第一条 (目的)
この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。 |
自己破産の目的は債務者の経済活動の再生ですが、財産を全て没収されると、生活の立て直しは困難になるでしょう。破産法の趣旨にも反するため、自己破産しても以下の財産は残ります。
自己破産をしても「自由財産」は残る
自由財産とは、破産財団に属せず、自己破産後も破産者に管理処分権が認められている財産のことです。対象となる財産は法律で定められており、自己破産をしても手元に残ります。
なお、破産財団とは破産者が破産手続きを開始する時点で、所有している99万以下の現金と差押禁止財産を除いたものです。
自由財産に該当するものは、以下のとおりです。
99万円以下の現金
所有できる現金については、破産法第三十四条にて以下のように規定されています。
第三十四条 (破産財団の範囲)
破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。 2 破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権は、破産財団に属する。 3 第一項の規定にかかわらず、次に掲げる財産は、破産財団に属しない。 一 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百三十一条第三号に規定する額に二分の三を乗じた額の金銭 |
破産法三十四条によると、「民事執行法第百三十一条第三号に規定された額に、2分の3を乗じた金額」は、破産財団に属さないと記載されています。
民事執行法第131条では、2ヶ月の生活に必要な金額(66万円)を、差し押さえをしてはならない財産として規定されています(民事執行法第131条)。これを破産法34条に当てはめて計算すると、規定の金額は「66万円×3/2=99万円」です。
上記の規定により99万円の現金は、自由財産として手元に残せます。ただし、この99万円に銀行の預貯金は含まれないため注意しておきましょう。
差し押さえが禁止されている財産
差し押さえが禁止されている財産に関しては、民事執行法や生活保護法をはじめ、さまざまな法律で規定されています。たとえば民事執行法152条では、以下のような財産について差し押さえが禁止されています。
財産の種類 | 差し押さえ禁止の対象となるもの |
動産 | 生活に欠くことができない衣服・寝具・家具など |
一月間の生活に必要な食料及び燃料 | |
標準的な世帯において二カ月に必要な生計費 | |
農業を営む者の場合、農業に欠くことができない器具・肥料・家畜およびその飼料や種子など | |
漁業を営む者の場合、水産物の採捕や養殖に欠くことができない漁網・えさなど | |
技術者・職人・労務者などで、その業務に欠くことができない器具など | |
職業・生活に欠くことができない実印やその他の印鑑 | |
仏像、位牌など | |
債権 | 国及や地方公共団体以外から、生計を維持するために支給される債権 |
給料・賃金・退職年金・賞与などの債権
(ただし差し押さえ禁止の対象となるのは、給付の四分の三に相当する部分) |
民事執行法では、上記のような財産について差し押さえが禁止されています。たとえば給与の場合、1/4は差し押さえられますが、3/4は手元に残すことができます。そのほか、国民年金や生活保護費なども原則として差し押さえが禁止です。
ただし国民年金や生活保護は、金融機関の口座に入金されると単なる預金とみなされ、差し押さえ対象となります。そのようなときは、裁判所に「差押禁止範囲変更」の申立がおすすめです。年金などが入金された口座も差押禁止の対象に認めてもらうことで、差し押さえを防げる場合があります。
新得財産
新得財産とは、自己破産手続の破産手続開始決定後に取得した財産のことです。新得財産は自由財産として所有が認められているため、破産財団を構成しません。たとえば破産申立人が、破産手続開始前に90万円を所持していた例でみてみましょう。
あらかじめ90万円を所有していた破産申立人が、破産手続開始後に報酬として30万円を受け取ったとします。すると手元に120万円の現金を所持することになりますが、これは新得財産として扱われるため、没収されることはありません。自分の所有物として、管理・使用することが可能です。
当然ながら上記が破産手続開始前の場合には、財団を構成します。
自由財産の拡張について
自由財産については、破産法にて範囲の拡張が認められています。
第三十四条 (破産財団の範囲)
4 裁判所は、破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後一月を経過する日までの間、破産者の申立てにより又は職権で、決定で、破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができる。 |
ただし自由財産の拡張については、一律の基準が存在しているわけではありません。破産申立人の生活状況、所有する財産の種類や価額などによって、事情を考慮したうえで総合的に判断されます。
たとえば東京地方裁判所では、自由財産の拡張が認められた場合、20万円以下の預貯金を所持することが認められます。
財産を残すための自己破産以外の選択肢
自由財産などがあるとはいえ、自己破産をおこなうと、大半の財産は清算されます。そのためどうしても残したい財産がある場合には、自己破産以外の選択を検討することが必要です。債務が返済できなくなった際の自己破産以外の選択肢については、以下のようなものが挙げられます。
- 任意整理をおこなう
- 「個人再生」制度の申し立て
- 経営者保証に関するガイドラインの活用
以下では、それぞれの選択肢について詳しく解説します。
任意整理をおこなう
財産を残す手段の一つとして、任意整理が挙げられます。任意整理とは、弁護士などの専門家に依頼することで、裁判所を介さずにおこなう債務整理のことです。債務者(代理人)と債権者の当事者間で話し合うことにより、主に次のような手続きをおこないます。
- 過払い金請求をおこない、借金の軽減・過剰に支払った分の返金をおこなう
- 返済期限の延長による1回あたりの返済額軽減
過払い金とは、キャッシングをはじめとする貸付けにおいて、法律上支払過ぎたと認められるお金のことです。利息については2010年の出資法改正前には、利息制限法(29.2%)と出資法(20%)とそれぞれに2つの上限が存在していました。この出資法と利息制限法による金利差のことを一般には「グレーゾーン金利」といい、支払った者に関して司法は返還請求を認めています。
過払い金の返還請求をおこなうことで借金の縮小、もしくはすでに完済している場合であれば、払い過ぎたお金を返還してもらうことが可能です。また任意整理では債権者に対して、返済期間の見直しなどの交渉もおこないます。返済期間を延長することができれば、返済時の負担軽減ができます。
仮に自動車や土地などの財産を所有していたとしても、任意整理の対象から除外すれば、没収されることはありません。協議した返済計画に沿って返済をおこなってさえいれば、自己破産を免れることができるため、財産を残すことができます。どうしても残したい財産がある場合には、自己破産の申立をおこなう前に、任意整理を検討してみましょう。
「個人再生」制度の申し立て
「個人再生」制度の利用は、住宅を維持しながら債務整理できるため、財産を残す有効な手段といえます。個人再生とは、債務に対する返済総額を減少させ、立案した再生計画に沿って返済すれば、残りの債務が免除される手続きのことです。債務者が裁判所に個人再生を申立し、裁判所が認めれば制度を利用できます。
債務者が個人再生を裁判所に申立すると、はじめに裁判所が選任した「個人再生委員」が、債権と財産の調査を実施します。調査の実施後、債務者(申立代理人)は調査した内容をもとに、個人再生計画案の作成をおこなわなければなりません。このとき債務の整理と残債に関する返済計画を立てますが、返済期限は原則3年(最長5年)です。
そのあと裁判所が債権者に意見の聴取と決議をおこない、認められれば認可決定となります。ただし返済期間中に返済ができなくなると、再生計画が取り消され、全ての債権の支払い義務が復活する場合もあるため注意が必要です。
個人再生は大きく以下の2種類に分けられており、利用するにはそれぞれ条件を満たす必要があります。
制度の種類 | 対象 | 条件 |
小規模個人再生手続 | 個人事業主または、小規模事業主 |
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給与所得者等再生手続 | 主に会社員 |
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(参照:「個人再生手続利用にあたって」より)
個人再生では、「住宅ローン特則」を付け加えることができます。住宅ローン特則はほかの借入や債務のように返済額の減少はできませんが、清算の対象から除外できるため、手放す必要がありません。計画通りに返済をおこなっていれば、住宅を財産として残すことができます。
個人再生を利用すると住宅は財産として残すことができるのに加え、再生計画通りに返済すれば、残債を免除してもらうことが可能です。そのため「住宅だけは残したい」という方にとっては、検討の余地があるといえるでしょう。
経営者保証に関するガイドラインの活用
企業の経営不振が原因で経営者が破産を検討する場合、経営者個人が融資を受けるために「経営者保証」をおこなっているケースが少なくありません。
経営者保証とは、企業が金融機関から融資を受けるとき、経営者個人が会社の連帯保証人となることです。経営者が連帯保証人となることで融資を受けやすくなりますが、企業が倒産して返済ができなくなった場合には、経営者個人が企業に代わり返済することが求められます。
経営者保証は資金調達などで一定のメリットがある一方で、事業再生や事業承継の妨げになっているという指摘もあります。そのため全国銀行協会と日本商工会議所は、平成26年2月1日より、「経営者保証に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」という)の適用を開始しました。
このガイドラインは、企業・経営者・金融機関共通の自主的なルールという位置付けで発足したもので、法的な拘束力はありませんが、経営者保証を不要または解除できる信用保証制度です。ガイドラインを活用するには、以下の要件の一部または全てを満たす必要があります。
(引用:中小企業庁「経営者保証」) |
ガイドラインに法的な拘束力はないため、最終的な判断は金融機関に委ねられますが、要件を満たすことで経営者保証が解除される可能性があります。そのほか、ガイドラインを活用するメリットは、以下のとおりです。
借入時・借入期間中 |
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保証履行後も保証人の手元に残る資産について |
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保証人情報について |
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(参照:中小企業庁「経営者保証」)
なお、ガイドラインは広く活用されることで、ひいては日本経済全体の発展に資することが期待されています。政府も企業の経営者ならびに金融機関に対して取り組みを推奨しており、活用されるケースも年々増加の傾向です。交渉によっては一定の財産を残せるため、財産を残したいときに有効な手段のひとつといえるでしょう。
まとめ
自己破産での財産隠しは、れっきとした犯罪行為です。発覚すると債務が免除されないだけでなく、懲役刑や罰金が科せられます。また債権者に不利益が生じることを鑑みると、道徳的な観点からみてもおこなうべきではないでしょう。
経営する会社が倒産し、自己破産をしたとしても、必要最低限の財産の所有は認められています。より財産を残したたいときには、法的に認められた適切な手段を講じることが大切です。少しでも多くの財産を残したいのであれば、任意整理や個人再生および経営者保証に関するガイドラインの活用など、自己破産以外の選択肢も検討してみましょう。