自己破産手続きの申し立てをすると、原則として全ての借金の支払い義務が免除されることになります。しかし、例外的に自己破産をしても支払い義務が免除されない債権もあります。
このような債権を「非免責債権」といいます。今回は非免責債権の種類や対処法、非免責債権と混同されやすい免責不許可との違いなどについて解説していきます。これから自己破産をしようとお考えの方はぜひ参考にしてみてください。
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非免責債権とは
非免責債権とは、免責許可決定の効力が及ばず、自己破産手続きをしても支払い義務が免責されない債権のことをいいます。自己破産とは、財産や収入が不足し、借金が返済できない場合に、裁判所から支払いが出来ないことを認めてもらい、借金の支払い義務を免除してもらう(免責許可決定)手続きです。
しかし、自己破産をして免責許可決定を受けても、特定の債務については免責されず、自己破産手続き終了後も支払い義務を負うことになります。この免責許可決定が出ても支払い義務が消滅しない債権を「非免責債権」といいます。
非免責債権と認定される基準
非免責債権と認められるのは、破産法253条1項に該当する債権であった場合です。通常、自己破産手続きの際は、それぞれの債権が非免責債権かどうかは判断されません。
そのため、もし自己破産手続きの終了後、非免責債権があった場合に、債権者から非免責債権の支払いを請求される可能性があり、訴訟などの裁判手続きを取られる可能性もあります。
問題となっている債権が「非免責債権に該当するかどうか」を把握しておけば、対処法が取れる場合があります。破産法253条1項で認定される非免責債権の種類については以下で詳しく解説しています。
非免責債権の種類
破産法253条1項において、7種類の具体的な場合に限り、非免責債権とすると規定しています。以下、この7種類の具体的な内容について解説します。
租税等の請求権
租税などの支払い義務は、自己破産をしても免除されません(破産法253条1項1号)。そもそも、「租税等の請求権」とは、国税徴収法または国税徴収の例によって徴収することが出来るものを指します(破産法97条4号)。例として、以下のものは「租税等の請求権」に該当し、自己破産をしても支払い義務が免除されません。
- 贈与税
- 相続税
- 所得税
- 固定資産税
- 自動車税
- 市町村民税
- 国民健康保険料
- 国民年金保険料
上記の支払いを行わずにいると、財産を差し押さえられる可能性があります。税金を滞納していると、事前の連絡なしに預貯金や給与などを差し押さえられてしまう可能性があることに注意しておく必要があります。
破産者が悪意で加えた不法行為による損害賠償請求権
破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権は非免責債権とされています(同条同項2号)。不法行為とは、故意又は過失に基づいた加害行為や権利侵害行為等のことを言います。
また、非免責債権となるのは、「悪意で加えた」ものに限定されます。悪意とは、単なる故意ではなく、積極的な害意を要することとされています。道義的に非難される行為をした人に対する制裁として、悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権は非免責債権と規定されています。
破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求
破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権は非免責債権とされています(同条同項3号)。3号では2号と異なり、悪意は要求されていませんが、「人の生命または身体」を害した場合に限定されています。
例えば、暴行により相手を怪我または死亡させた場合などの悪質なケースでは、被害者やその遺族に認められる損害賠償請求権は非免責債権となります。
親族関係に係る請求権
夫婦が暮らすために必要な生活費や養育費などのように、親族関係に係る請求権は非免責債権とされています(同条同項4号)。
夫婦間、親子間だけでなく、直系血族(祖父母と孫など)、兄弟・姉妹、また特別の事情がある場合は3親等内の親族間における扶養義務に基づく請求権も非免責債権とされています。
雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返済請求権
雇用関係に基づいた従業員の給料、賞与、退職金などの請求権は、労働者保護の観点から、非免責債権とされています(同条同項5項)。
なお、雇用主が法人の場合だと、免責・非免責の問題は発生しません。破産によって法人は消滅するため、そもそも法人の破産手続きには免責制度が設けられていないからです。よって、個人事業主である雇用主が自己破産をした場合のみ、使用人の請求権が非免責債権として問題となることに注意しておきましょう。
破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権
自己破産の申し立てをする際、債権者名簿や債権者一覧表に全ての請求権を記載して裁判所に提出する必要があります。ここで記載しなかった請求権に関しては、非免責債権になります(同条同項6号)。
債権者名簿に記載されなかった債権者は、破産手続きで異議を述べるなどの権利行使の機会が奪われることになります。そのため、このような債権者を保護するために非免責債権とされています。また、条文には、破産者が「知りながら」という文言がありますが、破産者が積極的に一部の債権者を名簿に記載しなかった場合はもちろんのこと、過失により記載を怠った場合も含まれます。
そのため、債権者の記載漏れには、注意しておく必要があります。なお、積極的に一部の債権者を記載しなかった場合は、虚偽の債権者名簿を提出したことになるため、免責不許可事項に該当します。
罰金等の請求権
罰金等の請求権は非免責債権とされています(同条同項7号)。以下のものが「罰金等の請求権」に該当します。
罰金 | 財産刑の1つで、金額が1万円以上のもの |
科料 | 財産刑の1つで、金額が1000円以上1万円未満のもの |
過料 | 行政上の義務違反に対して科す金選抜のこと |
刑事訴訟費用 | 刑事裁判で被告人の負担として裁判所より命じられた費用 |
追徴金 | 犯罪により得たものを没収できない場合、代わりに支払いを命じられる金銭 |
免責不許可事由とは
非免責債権と混同されやすいものとして「免責不許可事由」があります。免責不許可事由とは、免責許可決定が出ない可能性のある一定の事情のことを言います。
免責不許可事由に該当すると、破産の申し立てをしても免責許可決定が出ずに、負債の返済義務が一切免除されない可能性があります。破産法252条1項では、以下の免責不許可事由が定められています。
- 不当に財産価値を減少させる行為
- 不当に債務を負担する行為
- 特定の債権者のみに優先的に返済する行為(偏頗行為)
- 浪費、賭博又はその他の射幸行為
- 詐術を用いて借り入れる行為
- 業務帳簿等の偽造、変造、隠滅をする行為
- 虚偽の内容の債権者名簿を提出する行為
- 裁判所の調査に協力しないこと
- 破産管財人等の職務を妨害する行為
- 申し立て前の7年前以内に免責許可決定を受け、その決定が確定したこと
- 破産法で定める義務に違反する行為
非免責債権と免責不許可の違い
非免責債権と免責不許可は、支払い義務が免除されないという意味ではどちらも同じですが、全く別の概念です。免責不許可とは、債権の種類を問わず、破産者に一定の事由が認められる場合、全ての債権が免責されないことを言います。
それに対して非免責債権とは、事情を問わず免責許可決定の効力が及ばない債権のことを言います。
破産手続きと免責手続きの違い
自己破産には、破産手続きと免責手続きの2つの手続きがあります。破産手続きは換価財産を処分して借金の返済に充てるという債権者保護の意味合いの強い手続きになります。
一方で、免責手続きは返済不能になった借金の支払い義務を免除してもらうという債務者保護の意味合いが強い手続きになります。
よって、自己破産をするための2つの手続きの違いには注意しておきましょう。なお、事業者の破産手続きは「倒産手続き」と表現されることもあり、法律上では事業者も個人も同じ破産手続きをすることになります。
保証人と非免責債権について
主債務者に対する免責許可決定の効力は、保証人に対して及ばないため、保証人の負担する債務は免責されないことになります。なお、保証人が当該保証債務を主債務として債権者名簿に記載し、自己破産を申し立てた場合には、保証人固有の非免責債権に該当する事由がある場合を除き、免責の対象とされます。
また、主債務が非免責債権に該当する場合でも、その保証人の保証債務は、保証人自身が行う自己破産の免責対象となり得ます。
非免責債権がある場合の対処法
自己破産などをして借金を整理する前に非免責債権の支払いを完了し、対処しておくようにしましょう。そうすることで、自己破産で免責許可決定を受ければ債権の支払い義務が消滅させることが出来ます。
また、免責対象となる借金の返済より、非免責債権の支払いを優先する法が得策と言えます。なお、非免責債権の優先的な弁済が偏頗弁済として扱われることはないので、自己破産や個人再生の手続きに支障をきたすこともありません。
非免責債権払えない場合の対処法
非免責債権の支払いが難しい場合は、以下の対処法を取るようにしましょう。
租税等の支払いが難しい場合
租税等の支払いが難しい場合は、納税の分納や猶予が認められる可能性があります。そのため、自治体や税務署、年金事務所などの管轄窓口へ早めに相談するようにしましょう。
損害賠償や養育費などの支払いが難しい場合
不法行為に基づいた損害賠償を請求されている場合、婚姻費用・養育費等の扶養義務の履行を請求されている場合、雇用関係に基づいて使用人から給料の支払いを請求されている場合は、相手方との交渉や調停をすることにより、減額できる可能性があります。
非免責債権の時効
税金の納税義務や損害賠償請求権などの非免責債権には時効があります。そのため。時効が成立すれば、これら支払い義務は消滅することになります。時効を迎えるまでの期間は以下の通りです。
非免責債権 | 時効までに要する期間 |
住民税、所得税、消費税、固定資産税など | 原則、納期限から5年 |
国民健康保険 | 納期限から2年 |
不法行為に基づく損害賠償請求権 | 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき、または、不法行為の時から20年間行使しないとき |
生命・身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権 | 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しないとき、または権利を行使することができる時から20年間行使しないとき |
しかし、時効は容易に成立するものではありません。時効成立前の期間に督促状や催告書が届けば、時効は延長されることがあります。また、税務署や自治体が税金の滞納を長く放置しておくことは考えにくいでしょう。税金の延滞には延滞税も発生し、最終的に差押えとなってしまうおそれもあります。
弁護士に相談してみる
非免責債権が気になる時や支払いが難しいと感じる時は、弁護士に相談してみることをおすすめします。早めに弁護士に相談することで、非免責債権の問題をよりスムーズに対処できる可能性が高まります。また、弁護士に相談・依頼することには以下のメリットがあると考えられます。
非免責債権に該当するかどうか判断してもらえる
どのような債権が非免責債権に該当するかについては、これまで説明してきました。しかし、実際に非免責債権に該当するか判断するとなると、判断が難しいケースも考えられます。
特に、損害賠償請求の悪意や故意、重過失の有無を判断する際には、専門的な知識が必要とされます。そのため、弁護士に相談することで、法的な観点からそもそも非免責債権に該当するかどうかを的確に判断してもらえます。
免責債権の分割払い・減免の交渉をしてもらえる
非免責債権の種類にもよるのですが、相手方との減免・分割払いの交渉を弁護士に依頼できることがあります。例えば、慰謝料や養育費、婚姻費用などに関しては、弁護士を間に入れて交渉したほうが支払いの負担を軽減できる可能性が高くなるといえます。
最善の対処方法を提案してもらえる
弁護士に相談することで、最善の対処方法を提案してもらえることもメリットとして挙げられます。自己破産を希望していたが、場合によっては免責不許可事由があるため自己破産には適していないケースもあります。
また、収入や借金額によっては、自己破産ではなく個人再生や任意整理で対処可能なケースもあります。適切な方法を選択できなければ、借金も非免責債権もそのまま残ってしまうかもしれません。そこで、弁護士に相談することで状況に応じた最善の対処方法を提案してもらえるでしょう。
まとめ
ここまで非免責債権の種類や対処法、また免責不許可事由との違いなどについて解説してきました。非免責債権は自己破産をはじめとする債務整理をしても支払い義務が免除されないため、自己破産手続きの申し立てを検討している方は注意しておく必要があります。
また、非免責債権のことでお困りの方は、お早めに弁護士に相談してみるべきでしょう。弁護士に詳しい事情を話すことで、最善の解決方法で問題に対処できるはずです。