近年の日本企業における法人破産件数の動向を見ると、減少傾向にあります。2021年における法人破産件数は5,518件であり、4年間連続で法人破産の件数が減少しました。ただし、新型コロナウイルス感染拡大や円安などの影響によって、各業界において法人破産が今後増加する可能性はあります。
実際に、2022年のデータを見ると、法人破産件数が1000年より300件以上増加しており、リーマン・ショック時である2009年以来の増加幅を記録しています。
この記事では、法人破産の概要や手続き方法、メリットやデメリット、実施を決める基準などをわかりやすく解説します。法人破産を実施する際は、本記事で取り上げる内容を押さえたうえで手続きを進めましょう。
参考:帝国データバンク「倒産集計」2021年報、2022年報
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法人破産とは
法人破産とは、債務超過の状態に陥ったり、債務返済ができなくなったりした会社について、裁判所の破産手続開始決定によって破産管財人が選任され、破産管財人の管理のもとで、財産を処分し、税金・賃金などの優先的債務を返済し、余った資産を残りの債権者に配当することで会社を清算していく手続きのことです。
法人破産は、民事再生法などに基づき、裁判所が手続きを進めることで実施されます。企業が破産宣告を受けると、債権者による債権の回収が行われ、破産管財人が資産の処分などを行います。法人破産は、企業の再建や存続を目指す手続きとは異なり、企業の終焉を意味する手続きです。
法人破産と倒産、廃業の違い
「倒産」という用語は、一部の法律(例:中小企業倒産防止共済法など)で使われているものの、法律上統一的な定義のない講学上の用語です。法人破産と倒産はそれぞれ別の意味を持っています。簡単にいうと、倒産は破産を含む大きな概念であり、倒産というカテゴリーの中の1つに破産が位置付けられています。
倒産の手続きは、裁判所の手続きによって行われる「法的整理」と裁判外で行われる「私的整理」に分類できます。また、倒産の手続きは、最終的に債務者の財産をすべて清算する「清算型」と、財産すべては清算せずに債務の減額等によって事業などの再生を図る「再建型」の2つに分類されることもあります。
具体的な倒産の手続きとしては、破産法に基づく「破産手続」、会社法に基づく「特別清算手続」、民事再生法に基づく「再生手続」、会社更生法に基づく「更生手続」などが挙げられます。つまり、倒産といってもさまざまな手続きがあり、必ずしも法人破産であるとは限りません。
また、法人破産と廃業も、それぞれ別の意味を持つ手続きです。法人破産と法人の廃業では、法人の事業がストップする点では共通しているものの、「事業がストップする原因」に違いがあります。
法人の廃業の場合、基本的には経営者が決断したタイミングで事業がストップします。これに対して、法人破産は第三者(裁判所)から強制的に事業がストップさせられる点が特徴的です。
法人破産の目的と特徴
法人破産の目的は、債務超過に陥っている法人の債務を整理し、その債権者に対して適正な債務の弁済を行うことです。また、法人破産は、債務超過に陥っている法人の債務者の負担を軽減し、債務者の再起を支援することも目的の1つとされています。
法人破産は、債務の返済ができなくなった法人が、裁判所を通じて「法的」な「清算」を行う手続きです。 法的手続きであるため、全ての債権者が手続きに参加することが要求され、原則として平等な配当に服することになります。 また、「精算手続」であるため、破産手続が終了した場合、会社の法人格は消滅する点も特徴的です。
法人破産の要件
法人について破産手続を開始するためには、形式的要件(手続的要件・申立ての適法性)および実体的要件を満たす必要があります。
まず、法人破産の形式的要件としては、以下の5つが挙げられます。
- 破産申立ての方式が適式であること
- 破産申立人に申立権があること
- 債務者に破産能力があること
- 手数料を納付したこと
- 裁判所の管轄が正しいこと
裁判所に破産手続開始決定をしてもらうためには、破産手続開始の申立てを行わなければなりません。破産手続開始の申立ての方式については破産法第20条に規定があり、簡単に説明すると、破産手続開始の申立書を管轄の裁判所に提出するという方式で、破産手続開始の申立てを行う必要があります。
破産手続開始の申立ては、誰でも行えるわけではなく、破産手続開始の申立てを行える権利を誰が有しているのかについては、破産法で定められています。破産手続開始の申立てを行える権利は「申立権」と呼ばれており、申立権を有する人は「申立権者」と呼ばれています。破産手続開始の申立権者は、債務者である法人自身や、その法人の取締役・理事、債権者および監督官庁のみです。
破産手続を開始してもらうためには、破産者となるべき債務者に「破産能力」があることも必要です。破産能力とは、破産者になれる一般的な地位または資格のことです。権利義務の主体であれば、破産能力があると解されています。
破産手続開始の申し立てにあたっては、裁判所に手数料を納付する必要があり、納付しなければ申立てが却下されます。
また、破産手続開始の申し立ては、法律で定められた管轄の裁判所に対して行う必要があります。具体的には、債務者である会社など法人の主たる営業所の所在地を管轄する地方裁判所が管轄裁判所に申し立てるのが原則です。
続いて、法人破産の実体的要件としては、以下の2つが挙げられます。
- 債務者に破産手続開始原因(支払不能または債務超過)があること
- 破産障害事由が無いこと
破産手続開始原因には、「支払不能」と「債務超過」があります。
支払不能とは、「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」にあることです(破産法第2条11項)。ここでいう「一般的かつ継続的に弁済することができない状態」とは、重要な財産を処分しなければならないなど、通常の方法ではもはや返済を継続できない状態に陥っていることを意味します。
また、債務超過とは、「債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態」にあることです(破産法第16条1項)。つまり、赤字であることを意味します。
法人破産の実施を選択する理由
法人破産には後述するようにメリットとデメリットの双方が存在しますが、この点を踏まえてどのような理由で法人破産が検討されるのか、主な内容を解説します。
現実問題として、法人破産が選択される最も大きな理由の一つに、債務超過や支払不能、返済困難の状態に陥ったことで発生するトラブルへの対応が挙げられます。債務超過・支払不能・返済困難などが発生した法人では、債権者から支払督促を行う旨の電話が大量にかかってきたり、債権者に事務所や経営者の自宅に直接押しかけられたり、資金不足による給料の未払いを不安視する従業員から詰め寄られたり、ときには債権者や従業員から監禁・恐喝・強奪といった違法な行為・手段によって債権の回収を図られたりすることがあります。
当然ながら違法な行為・手段を取ることは決して許されることではありませんが、債権を回収できなければ自身も破産を強いられてしまう債権者の存在もないとは言い切れず、そのために違法な行為・手段によって債務者である法人から債権回収を図ろうとするケースは決してないとは言い切れません。そこで、こうしたトラブルを事前に回避したり、すでに発生しているトラブルに対応したりすべく、やむなく法人破産を選択して法律の保護下に入るケースがあります。
そのほか、支払い日直前に迫っているものの資金が不足している状態のなかで、従業員に対する給料未払いによって混乱に陥ることを避けたり、税金の徴収や取引先からの差押えによって債権者への債務を返済できなくなったことから支払期日の到来によって混乱に陥ることを避けたりするために、やむなく法人破産の申し立てを行うケースもあります。
法人破産のメリット
本章では、法人破産の実施によって債務者に期待されるメリットの中から、代表的な4つをピックアップし、順番に解説します。
債権者から催告されなくなる
破産手続が開始されると、破産債権者の権利行使が制限されることになります。具体的にいうと、破産手続が開始されると、破産債権者は、破産手続によってのみ債権回収が可能となり、個別に催告をしたり、訴訟を提起したり強制執行をしたりといったことができなくなります(破産法第100条1項)。
そのため、債務者にとっては、法人破産を行うことで、債権者から支払催促の電話をかけられたりして悩まされるというトラブルから解放されることになります。
債権者の取り立てがなくなり債権者対応を弁護士に任せられる
法人破産の手続きについて弁護士に依頼をした時から、即日債権者に対して支払停止の通知が発送されます。その後のやりとりや交渉は弁護士に対応してもらえるため、依頼者に対する直接的な取立てが事実上なくなります。
債務の負担が免除される
破産手続きが完了すると、破産対象の法人は清算され、法人格そのものが消滅します。債務の負債がなくなるため、資金繰りで悩む必要がなくなります。原則として、税金や社会保険料の未払い・損害賠償義務なども消滅します。
なお、破産以外の再建型の債務整理では、債務の全部または一部を分割して支払っていくことになるため、債務自体がなくなることはありません。
無理な経営で親族や従業員に対して迷惑をかけ続けずに済む
資金繰りが苦しい状態で法人の経営を継続していると、とりわけ零細企業や中小企業などでは親族から借り入れをして会社の運営に回していたり、親族が保証人になっている場合は親族にも取立が及んでいたりするケースも見られます。従業員に対する給料やボーナスを減らしたり、未払いを起こしていたりするケースも珍しくありません。
このように法人が苦しい状態だと、親族や従業員に対して迷惑をかけることになってしまいます。そのため、無理な経営を続けて親族や従業員の生活を脅かす期間を長引かせてしまうのであれば、破産手続によって債務処理を行ってしまったほうが良い場合があります。
新たな出発を切れる
法人破産の手続きを取ることで法人は消滅してしまうものの、債務の負担が免除されることから、経営者は身軽な状態で再出発を切ることが可能です。
さまざまな理由によって事業に失敗して多額の借金を負ってしまったとしても、新たに別の会社を経営することもできるほか、別の企業に就職して活躍することも可能です。
法人破産のデメリット
ここまで説明したとおり、法人破産には一切の債務を免れることができるという大きなメリットがありますが、その反面で少なからずデメリットもあります。
本章では、法人破産の実施によって問題となりやすいデメリットの中から、代表的な5つをピックアップし、順番に解説します。
法人格が消滅し法人名義の財産を失う
破産手続が完了した法人では、法人格が消滅します。そのため、当然ながら、その法人で行っていた事業を継続することができなくなります。
また、破産手続が開始されると、破産法人の財産はすべて裁判所により選任された破産管財人が管理処分権を持つことになり、その破産管財人によって換価処分もしくは廃棄処分されることになります。法人の有していた有形・無形の財産すべてが処分されることになるため、物質的な意味でも法人が消滅してしまいます。
従業員を解雇する必要がある
法人破産によって、物的資産だけでなく人的な資産も失われます。つまり、法人破産を行うと、従業員を解雇しなければなりません(任意に退職してもらうこともあります。)。
従業員の給料や退職金は他の債権よりも優先的に支払いが実施されますが、そもそも支払うだけの財産もないという場合には、それらを支払うこともできないケースも想定されるでしょう。
なお、例外的に、破産管財業務のために従業員の雇用を継続する措置が取られることもありますが、あくまでも破産手続中の間における一時的な措置にすぎません。
代表者や役員の信用度が低下するおそれがある
法人破産を行うと、金融機関からの借入れや取引先に対する買掛金などの債務も消滅しますが、当然ながらこれらの債権者は満足に債権を回収できなくなります。
また、法人破産の実施に伴い、破産手続を開始した法人では、それまでに請け負っていた仕掛中の仕事を完成前に取りやめなければならないこともあります。
そのため、法人破産を行うと、その経営者である代表者・役員は、取引先や顧客などからの経済的な信用度や職業上の信用度が低下するおそれがあります。
これにより、破産した法人の代表者や役員は、新たな企業に際して融資を受けられなかったり、関係者や同業者との取引を行えなくなったりするようなトラブルが発生する可能性があります。
代表者や役員が法的責任を負う可能性がある
ただ単純に法人破産を行ったという理由のみで、破産した法人の代表者や役員がその法人の債務について責任を負わなければならなくなるわけではありません。
しかし、代表者や役員が法人の債務について連帯保証人になっている場合、法人の破産に伴って、連帯保証人である代表者や役員が代わりに支払いをしなければならなくなります。
また、代表者や役員が故意または重大な過失で法人に損害を与えていたケースや、法人の財産を個人名義に変えていたようなケースなどでは、破産管財人から損害賠償責任の追求や否認権を行使される可能性があるでしょう。
保証人・連帯保証人等が負債の支払い義務を負う
法人破産の実施にあたって、その法人の債務について保証人・連帯保証人・連帯債務者が設定されているケースでは、その保証人・連帯保証人・連帯債務者が破産する法人に代わって、個人の資産をもって負債を支払わなければなりません。
法人の負債が多額であり、個人の資産では負債を支払いきれないという場合、その保証人等の個人も自己破産などの債務整理をしなければならなくなる可能性があります。
法人破産が代表者個人に与える影響
法人と代表者個人はあくまでも別人格であるため、基本的には法人破産したとしても代表者の個人資産やプライベートに直接的な影響は及びません。また、法人破産にあたって、代表者個人が法人の抱える債務を肩代わりすることは不可能であるうえに、債権者が代表者個人に対して請求することも認められません。
ただし、債権者の側で法人に万が一のことがあった場合に、その代表者に対して債権代金を請求できるようにあらかじめ手が打たれている場合にはこの限りではありません。最も多いのは、法人が金融機関から借入を実施するにあたって、その代表者が個人保証を行うことが条件とされ、連帯保証人となっているケースです。
そのほか、買掛金や未払金などの支払が遅れがちな取引先に対して、代表者が個人的に保証を行っていたり、個人で保有する不動産を担保に供していたりするケースもあります。
こうしたケースでは、法人で債務を弁済できないと、その保証をした代表者個人に対して請求が来るため、代表者が債務の返済義務を負うことになります。法人が保有する債務の額は、ときに数千万円単位(もしくはそれ以上)に及ぶこともあり、個人で簡単に払いきれるものではありません。代表者個人での弁済が困難であることが分かっている場合、法人だけでなく個人についても自己破産の手続きを行う必要があります。
特に零細企業や中小企業の場合、金融機関からの借入については高い確率で個人保証がつけられているため、破産手続に入る前に必ずチェックしておきましょう。
法人破産の手続きと流れ
法人破産の手続きの流れの全体像は以下のとおりです。
- 弁護士への相談・サポートの依頼
- 債権者に対して破産予定の旨を通知
- 従業員の解雇・テナントの明け渡し
- 申立書や必要書類の準備
- 裁判所に対する破産の申し立て
- 破産管財人による法人財産の売却
- 債権者集会における説明
- 債権者への配当・手続きの終了
それぞれのステップで行われることを順番に解説します。
①弁護士への相談・サポートの依頼
法人破産の手続きは、まず専門家である弁護士に相談し、手続きのサポートを依頼するところから開始します。はじめに、弁護士に対して以下の内容を話し、破産手続きの進め方や方針などを決めるのが一般的です。
- 経営が行き詰った経緯
- 債務の種類と金額
- 法人の資産状況
- 従業員の人数・雇用形態
- 事務所の賃貸の有無
- 代表者が連帯保証している債務の有無
そのほか、弁護士は、法人破産後に代表者がどのように生計を立てていくのかについても聴き取り、必要に応じてサポートを行うことがあります。
②債権者に対して破産予定の旨を通知
破産手続の方針が決まったら、債権者に対して破産予定であることを通知します。通知は弁護士からの文書で行われますが、これを「受任通知」と呼んでいます。
破産手続における受任通知には、債権者からの取り立てを止める効果があります。基本的に、受任通知以後は債権者からの連絡をすべて弁護士宛てにするため、代表者が直接連絡をする必要がなくなります。
③従業員の解雇・テナントの明け渡し
法人で従業員を雇用している場合、従業員を解雇しなければなりません。また、賃貸物件にテナントに入っているケースでは、明け渡しを行います。
これらの手続きについても、弁護士のサポートを受けながら実施していくのが一般的です。
④申立書や必要書類の準備
破産手続を進めるためには、裁判所に対して申立書やその他の必要資料を提出する必要があります。破産手続の申立書は弁護士が作成するのが一般的であり、経営者や関係者からの聞き取りのほか、各種書類・資料の精査や現地調査に基づいて債権や財産の調査を行ったうえで申立書の作成を進めていきます。
また、破産手続の必要資料については、弁護士の指示をもとに準備するのが一般的です。資料によっては準備に時間がかかるものもあるため、時間がかかるものから段取り良く集めていくと良いでしょう。
法人破産に必要な書類には、主に以下のようなものが挙げられます。
- 破産手続開始申立書
- 破産申立についての取締役会議事録又は取締役の同意書
- 申立補充書
- 一般債権者一覧表
- 労働債権者一覧表
- 財産目録
- 代表者の陳述書(報告書)
- 委任状
- 法人登記の全部事項証明書 (1ヶ月以内のもの)
- 決算書 (貸借対照表・損益計算書を含む) (直近2期分)
- 不動産登記の全部事項証明書
- 賃貸借契約書のコピー
- 預貯金通帳のコピー (過去1年分全て)
- 手形・小切手帳
- 受取手形
- 車検証または登録事項証明書のコピー
- ゴルフ会員権証書のコピー
- 有価証券のコピー
- 生命保険証券(生命保険証書)のコピー
- 解約返戻金計算書のコピー
- 自動車価格査定書のコピー
- リース契約書 (自動車、プリンター・FAX等の通信機械など)のコピー
- 訴訟関係書類のコピー など
⑤裁判所に対する破産の申し立て
申立書とその他の必要書類が揃ったら、弁護士が裁判所に提出して破産の申し立てを行います。また、破産の申立てを行う際は、予納金のほか裁判手数料(収入印紙代)や郵券(郵便切手)の納付も求められます。
裁判所指定の書類や予納郵券・官報公告費の金額は裁判所ごとに若干の相違があるため、申立てを行う前にどのような添付書類が必要となるのか、予納額はいくらなのかをチェックしておきましょう。
破産の申し立てが受理されると、申立てを受理した地方裁判所が要件を充たしているのかどうかを審査し、2週間程度で裁判所が「破産手続開始決定」をします。これにより、裁判所での破産手続が開始される仕組みです。
なお、破産手続開始決定と同時に、裁判所によって破産管財人が選任されます。破産の申し立ての後は、破産管財人との打ち合わせが求められます。
代表者と破産の申立てを担当した弁護士が一緒に破産管財人の事務所を訪問し、打ち合わせを行うのが一般的です。ここでは、破産に至った事情や破産手続きを進めるにあたって必要な項目などについて、破産管財人と打ち合わせを行います。
⑥破産管財人による法人財産の売却
破産管財人は、法人財産の売却を担当します。具体的には、法人の在庫・備品類・所有不動産などを売却して金銭に変えます。
破産者である法人およびその代表者・役員には、破産管財人による法人財産の売却などの管財業務に協力しなければならない法的義務が課せられています。
⑦債権者集会における説明
破産手続開始決定が出た後で、裁判所によって債権者集会の期日が決められます。
債権者集会とは裁判所で行われる手続きであり、破産者が破産に至った事情や会社の資産状況に関して債権者や裁判所に対して説明を行う手続きです。
ただし、債権者集会に債権者が出席することはそれほど多くなく、破産管財人・破産の申立てを担当した弁護士・破産会社の代表者・裁判官で債権者集会を行うケースが多いです。
なお、債権者集会は1回の開催で終わることもありますが、破産手続の進捗状況を確認する目的で、数回継続して行われることもあります。
⑧債権者への配当・手続きの終了
法人財産の売却が終わった段階で、債権者への配当が行われます。配当が終われば、破産手続は終了します。なお、配当するような財産がない場合は、「異時廃止」として破産手続きが終了になります。
法人破産にかかる期間
法人破産では、裁判所によって選任された破産管財人が破産手続きを取る法人の財産を調査・管理・換価処分し、それによって得た金銭を債権者に弁済・配当していく「管財手続」の形式が取られることがほとんどです。
管財手続の場合、法人の破産手続が終結するのは、財産の換価業務や債権者への弁済・配当の業務など、破産管財人の業務がすべて終了したときです。
破産管財人の業務がすべて終了するまでの期間については、その法人の負債や財産の状況・債権者数・従業員の有無・規模などによってまちまちです。そのため、破産手続が終了するまでの期間については、一概に何か月・何年であると断言することはできません。
とはいえ、大まかな目安を述べると、法人破産の手続きにかかる期間は9~12ヶ月程度になることが多いです。一般的に、弁護士に相談してから破産の申し立てを行うまでに、数ヶ月かかります。その後、法人の破産手続の申し立てから約2週間で破産手続開始決定が行われ、そこから約2~3ヶ月後に債権者集会が開催催されます。会社の財産をすべて換価するまで破産手続きは完了となりませんが、順調に換価が進めば破産手続き開始決定から6ヶ月以内で完了するケースが多いです。
法人破産に必要な費用
法人破産を行う際は、費用の支払いが必要とされます。
必要な費用を準備できずに法人破産の手続きが進められないというトラブルを回避するために、本章では法人破産に必要な費用について取り上げます。
法人破産において必要とされる費用の種類は以下の3つです。
- 弁護士費用
- 予納金
- 実費
それぞれの費用の内容を順番に解説します。
弁護士費用
法人破産の手続きについて弁護士にサポートを依頼した場合、具体的な金額や内訳は弁護士事務所によって異なります。弁護士費用の金額については破産に関わる債権者の数や債務総額によっても変動することがあり、債権者と負債が多いほどかかる金額も高額になる傾向があります。
弁護士費用の内訳としては、結果に関わらず予め支払うことになる着手金のほか、事務処理に必要な費用として発生してくる交通費・切手代・遠方宿泊費などがあります。
また、裁判所に納める予納金を弁護士費用に含めるかどうかで金額が変動するため、事務所ごとの費用の高低を比較する場合は内訳に注意しましょう。
予納金
予納金とは、裁判所に対して破産の申し立てを行うにあたって事前に納めなければならない費用のことです。
裁判所が申し立てを受けて破産に関する手続きに入る際に、破産についての事務処理を遂行する破産管財人を選出し、破産が決定した旨を官報に掲載する必要がありますが、これらの費用を賄うことが予納金の主な役割です。
破産手続における予納金には複数の種類がありますが、破産管財人の報酬に充てられる引継予納金がその大部分を占めます。予納金の額は、破産手続の申し立て後に裁判所が会社の状況を精査したうえで決定するため、申立の準備段階で具体的な金額はわかりません。
以下に、法人破産の手続における予納金の種類と費用の大まかな相場を解説します。
費用の種類 | 概要 | 相場 |
官報公告費用 | 破産手続を進めるうえで、破産が決定した旨を官報に公告する際にかかる費用。 | 10,000円〜19,000円程度 |
引継予納金 | 破産手続を遂行するため破産管財人の報酬に充てられる費用。 | 最低20万円 |
少額管財事件(破産管財人が主導し、通常管財よりも簡略化された形で行われる破産手続)ではない特定管財事件の引継予納金の基準は、負債額に応じて以下のとおりです。ただし、これはあくまでも東京地方裁判所の事例であり、裁判所によって引継予納金の金額は多少変動する点に注意しましょう。
負債総額 |
引継予納金の額 |
5,000万円未満 | 70万円 |
5,000万円~1億円未満 | 100万円 |
1億円~5億円未満 | 200万円 |
5億円~10億円未満 | 300万円 |
10億円~50億円未満 | 400万円 |
50億円~100億円未満 | 500万円 |
100億円〜 | 700万円 |
上記に対して、東京地方裁判所本庁および立川支部における少額管財事件の場合、引継予納金は原則として20万円です。なお、裁判所によって引継予納金の金額は異なります。関東圏の裁判所では、東京地裁と同様に少額管財事件の引継予納金を20万円とするケースが多いものの、別の地域では金額が異なる場合もあります。
実費
破産手続開始の申し立てにあたっては、ここまでに紹介した費用のほかに、裁判手数料(収入印紙代)や郵券(郵便切手)などの費用の支払いも求められます。
裁判手数料は収入印紙で納付しますが、具体的な手数料の金額は自己破産申し立てであるか、債権者破産申し立てであるかによって変動します。東京地裁本庁の場合、通常は破産手続開始の申立書に収入印紙を貼付して提出します。法人破産の場合、一律1,000円の支払いが必要です。
また、破産手続開始の申し立てにあたっては、郵券(郵便切手)の提出も必要です。郵券の金額や内訳は裁判所によって異なるうえに、手続きの内容によっても差異が見られます。
東京地裁本庁の場合、東京高裁地裁簡裁合同庁舎の地下の郵便局(東京高等裁判所内郵便局)で郵券のセットが販売されています。少額管財の場合には、4,200円分の郵券が必要です。
法人破産を弁護士に相談すべき理由
法人破産を行う際は、弁護士への相談をおすすめします。
法人の経営に行き詰まっている経営者の方の多くは、今後どうすれば良いのかわからず悩んでいます。法人の経営のみならず、自身の生活のことでも悩んでいる状態では、最適な債務整理の手段を検討することは難しいです。
法人破産の場合、代表者個人も併せて破産すべきかどうかなど専門的な判断が必要になります。そもそも法人破産が最適かどうかも、法人の資産や経営状況を踏まえた専門的な判断が求められます。
弁護士であれば会社経営者の方からの相談を多く扱っているため、法人の債務整理について客観的な立場から最適な手段を選択できるでしょう。
また、法人破産では、書類作成や破産管財人への適切な引継ぎ、会社資産の流出防止などの観点から、弁護士に依頼して手続きを進めることが適当だと考えられています。
加えて、法人破産は、個人破産と異なり迅速に申し立てを行わなければならないことから、弁護士によるサポートが必要不可欠です。法人破産の場合、債権者や従業員への対応など多方面の関係者とのやり取りも求められますが、このような対応に関して専門家である弁護士に一任することで安心して法人破産の手続きを進められるでしょう。
法人破産に関するよくある質問
最後に、法人破産の実施を検討している経営者の方からよくある質問とその回答をまとめました。
破産申立前後で代表者が死亡した場合の対応は?
代表者が死亡している場合、法人の自己破産申立てをすることができません。とはいえ、実際には代表者が死亡しているからといって、すでに支払不能や債務超過になっている法人を放置しておくことはできません。
法人自身が破産を申し立てる場合は「自己破産」と呼ばれますが、これに対して取締役や理事個人が破産を申し立てる場合は「準自己破産」と呼ばれています。
準自己破産における取締役や理事は、代表者である必要がありません。つまり、代表者が死亡している場合でも、他の取締役や理事がいれば準自己破産の申立てを行い、法人を破産させることが可能です。
ただし、準自己破産の場合であっても代表者がいないことには変わりはなく、申し立てはできても代表者がいなければ破産手続を進めていくことはできません。
そのため、代表者が死亡している場合、準自己破産の申し立てと同時に、代表者の代わりを務める「特別代理人」を選任してもらう申し立ても実施することがあります。
なお、新たに代表者を選任・選定することができれば、代表者が死亡した場合でも,法人の自己破産の申し立ては可能です。
法人破産後の税金や社会保険料の取り扱いは?
法人について破産手続開始決定がなされると、法人は解散し、破産手続の終了をもって完全に消滅します。債務の主体が消滅する以上、債権も消滅せざるを得ないため、法人に対する滞納税金や滞納社会保険料の請求債権も消滅します。
つまり、法人が無くなるということは、滞納税金があったとしても、その税金債権の債務者が存在しなくなるということであるため、当然ながらその税金債権も消滅します。したがって、法人が破産した場合、その法人が負っていた滞納税金は基本的に無くなります。
なお、個人(自然人)の場合は、自己破産して免責が許可されても、税金や社会保険料は非免責債権であるため、支払義務を免れません。
まとめ
法人倒産とは、債務超過の状態に陥ったり、債務返済ができなくなったりした会社について、裁判所の破産手続開始決定によって破産管財人が選任され、破産管財人の管理のもとで、財産を処分し、税金・賃金などの優先的債務を返済し、余った資産を残りの債権者に配当することで会社を清算していく手続きのことです。
法人倒産を行うことで、債権者の取り立てがなくなり債権者対応を弁護士に任せられたり、債務の負担が免除されたりといったさまざまなメリットが期待できる一方で、法人格が消滅し法人名義の財産を失ったり、従業員を解雇する必要があったりなどデメリットの発生が問題となるケースもあるため注意しましょう。
法人破産の手続きを進めていく際は専門的な判断や知識が求められるため、法人破産の実施を検討したら、弁護士に相談することが望ましいです。